横浜市の新型コロナウイルスワクチン接種の予約で混乱が生じている。
3日に始まった高齢者向けの集団接種の予約は、市の想定を超えるアクセスが集中しシステムがパンクした。

市民からは困惑や怒りの声がやまず、市は受け付け計画の大幅な見直しを迫られた。何があったのか。

「予約件数が積み上がらない」。3日午前9時の受け付け開始直後、業務を委託した業者とテレビ会議を結んで状況を見守っていた市幹部は、
すぐに異変を察知した。大量のアクセスがあるのに、実際の予約数がなかなか増えない。

想定を超えるアクセスで、専用ホームページ(HP)を支えるサーバーの処理が追いつかなかった。

同じ頃、委託先が運営するコールセンターの電話も鳴り続けていた。
東京都と札幌市のセンターで400回線を準備して臨んだが、HPと同じシステムを使うため、結局は「共倒れ」となった。

午前9時45分。市は受け付けの中断を決めた。
負荷がかかったサーバーやシステムに対策を講じるためだったが、作業は難航した。

この日の受け付け再開を市が断念したのは午後3時直前だ。サーバーを他自治体の予約システムと共有していたため、
大がかりな改修など抜本的な対策を講じると他に影響が及ぶ可能性があった。中止は不可避だった。


市民の怒り収まらず


港北区の元市職員の男性(81)は3日午前9時すぎ、コールセンターに電話した。だが、数回呼び出し音が鳴って流れたのは、かけ直しを求めるアナウンス。
その後、電話をかけた回数は「数えきれない」が、夕方になって長男から受け付け中止を知らされるまでつながらなかった。

市によると、5日の受け付け再開後も電話がつながりにくい状態は続いた。
男性はサイトで予約する手段がなく、結局、今回(約7万6000人分)の予約枠を取ることはできなかった。

異例の事業に携わる市職員らを気遣いつつ、「区ごとに受け付けを分けるなどの工夫はできたのではないか」と憤る。

「ふざけるな」「横浜市はだめだ」。今回の混乱でネット上には厳しい批判があふれた。多くは想定の甘さを指摘するものだ。林文子市長の責任を問う声もあった。
6日の予約受け付け終了後も市には市民からの苦情が届き続けているという。


アクセス集中、甘かった想定


原因はシステムへのアクセス集中に対する想定が甘かったことだ。市によると、3日の予約開始直後、システムには1分間に約200万件のアクセスがあった。
だが、準備していた許容量は100万件。委託先業者が提示した想定案を市が承認した。市の担当者は同日夕の記者会見で「緻密な計算はしていなかった」と陳謝した。

トラブルは既に他自治体で起きていたが、教訓が生かされていなかった。川崎市が4月に75歳以上の高齢者約15万人を対象にHPと電話で予約を受け付けたところ、
開始直後に約9万件のアクセスがあった。HPは約9時間にわたってつながりにくくなり、市は応急措置としてシステム改修を実施した。

その後、サーバーを増設し、65〜74歳(約15万人)への通知の発送を1カ月延期した。
直後の定例記者会見で同市のトラブルを踏まえた対策を問われた横浜市の林市長は「自動的にサーバーを拡張する仕組みを導入する。
対策をしっかりやろうとしている」と説明していた。

3日の混乱を受けて市はサーバーを他自治体のものと切り離した上で増設した。
600万件に対応可能な仕様に変え、5日の再開時は最大約240万件のアクセスを乗り切った。追加費用については「算定できていない」としている。

高齢者だけで約97万人という膨大な人口を抱える市は抜本的な対策を狙った。
だが、7日に発表した改善策はどれも小規模なもので、10日以降の予約受け付けが円滑に進むか懸念が広がる。
https://mainichi.jp/articles/20210508/k00/00m/040/007000c#:~:text=%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3