そしてこの大八廻りの途中、辰野駅からはJR飯田線が南に延びる。天竜川に沿って走る屈指の秘境路線で、4つの平の1つの伊那平をゆく。その南信地方の中心都市・飯田は長野・松本・上田・佐久に次ぐ長野県では第5の人口を抱える都市である。特急「伊那路」が走る飯田から先は天竜峡の渓谷沿いの旅となって、典型的な秘境の趣を味わえる区間となる。

■松本から延びる上高地線

 このまま飯田線の秘境駅を旅してもいいが、行き着くところ愛知県に抜けてしまうので中央本線に立ち戻る。塩尻駅で篠ノ井線に乗り入れて「あずさ」は終点の松本へ。長野・上田と並ぶ長野県内の大都市である松本には、やはり私鉄ローカル線が通っている。松本駅から西に延び、上高地を目指すアルピコ交通上高地線だ。

 上高地線は梓川(千曲川の支流である)の生み出す河岸段丘を上ったり下りたりしながら標高を高めていき、上高地登山客のためのバスが発着する新島々駅を終点とする。

 新島々駅の先には乗鞍高原が控えて岐阜県との境もほど近い。鉄路は通じていないが、乗鞍岳の南を回る道筋には野麦街道という名を持つ。諏訪の製糸工場に出稼ぎに出ていた飛騨の農家の娘が病に倒れ、ふるさとを目指した途中に命を落とした『あゝ野麦峠』の舞台である。

 松本駅からは2本のルートが分かれている。1つはまっすぐに北を目指す大糸線ルートだ。大糸線は“大町と糸魚川を結ぶ”ということから名付けられたもので、松本からソバ畑の中をゆく安曇野を抜け、長野五輪のスキージャンプ競技の舞台になった白馬を経て信濃大町へ。信濃大町駅は立山黒部アルペンルートの長野県側の起点である。

 中央線特急「あずさ」はその一部が大糸線にも直通する。朝8時ちょうどのあずさ5号がそれで、終点は大糸線の南小谷(みなみおたり)駅。大糸線は松本から南小谷までが電化されている。

 大糸線=ローカル線という印象も強く、事実その通りでもあるのだが松本側は通勤通学路線としての役割もあり、白馬などの観光地も多い。案外にローカルではない顔も持っている。大糸線が究極のローカル線になるのは、南小谷駅より北のJR西日本区間である。

 大糸線でそのまま県境を越えてもいいが、やはり最後にはいかにも長野県らしいあの路線を行かねばならぬ。松本駅に戻って篠ノ井線だ。

 篠ノ井線は塩尻―松本―篠ノ井間を走る。名古屋からやってくるJR東海サイドの中央線特急「しなの」もこの篠ノ井線で長野を縦断。長野・松本という長野県二大都市を結ぶ役割もあり、さらに途中には姨捨駅の絶景車窓。ほとんどが山岳地帯でその狭間にいくつかの盆地が点在するという、長野らしさが存分に詰まった路線である。