「メディアに利用されているだけの古参」

「アルマゲドン(世界の滅亡)にでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」

 5月25日、イギリスの新聞『イブニング・スタンダード』の電子版の取材にそう断言し、物議をかもしているのは、IOC委員のディック・パウンド氏(79)だ。同氏はIOCの「最古参委員」という肩書きと、歯に衣着せぬ物言いで、世界中のメディアから東京五輪実施可否のご意見番として、もてはやされている。

 日本のメディアもご多分に漏れず、その “権威” にあやかっている。『週刊文春』は6月3日号で、「IOC重鎮委員」と持ち上げて、パウンド氏の単独インタビューを掲載。「菅(義偉)首相が五輪中止を求めたとしても、大会は開催される」という同氏の発言を見出しにとり、五輪断行論を展開した。ほかにも朝日新聞などの大手メディアが、こぞって “パウンド詣で” にいそしんでいる。

 1978年からIOC委員を務めているパウンド氏は、スポーツ界ではどんな評価を受けているのか。

「じつは今のパウンドさんには、IOCにおける実権がありません。何でも質問に答えるので、メディアに利用されているだけの存在です」

 そう語るのは、元JOC国際業務部参事で、1998年の長野冬季五輪招致に関わった、スポーツコンサルタントの春日良一氏だ。

「パウンドさんは元競泳選手で、1960年のローマ五輪にカナダ代表として出場し、100m自由形のファイナリストになったトップアスリートでした。IOC委員としても、僕が長野冬季五輪の招致をやっていた1991年のころはIOCの副会長を務め、(フアン・アントニオ・)サマランチ会長の右腕として活躍する、バリバリの実力者でした。

 パウンドさんの最大の実績は、いまは商業主義と批判されてもいますが、オリンピックのマーケティングの礎を作ったことです。ロサンゼルス五輪(1984年)以降、テレビ放映権料がグンと上がったのですが、IOC側で交渉の先頭に立っていたのが彼です。アメリカのNBCやヨーロッパの放送連盟、NHKといった各国のテレビ関係者と対峙して、テレビ放映権料を100倍にも膨らませました。

 同時にドーピング問題にも先頭に立って着手し、WADA(世界ドーピング防止機構)を創設して、初代会長を務めました。さらにCASというスポーツ仲裁裁判所を設立して、スポーツ界におけるいろいろな紛争・訴訟を裁く仕組みを確立させました。125年ほど続くオリンピックの歴史のなかでも、現在のIOCの礎を作った “節目” の人物であるといえます」

 実力者だったパウンド氏だが、いまは一線を退いているという。

「もちろんオリンピックのことはよくご存知ですし、過去の実績も大きいうえ、IOCという “村社会” のなかの長老ですから、大事にはされています。ただ、いまはまったく実権のある委員会に入っていません。かつて辣腕を振るっていたマーケティングや財務といった、現在のIOC運営の中心からは離れています。

 だからこそIOCの立場を考えず、ご自分のご経験とお考えから、好きなことを責任なく言えるんです。また長老ですから、彼が何か問題発言をしても、IOCのなかに文句を言える人はいません」

https://news.yahoo.co.jp/articles/3390fb6ad2e54ea66e0a88f2a97f29c19f022616
5/30(日) 6:08配信