大人んサー2021.05.30: 大学通信常務 安田賢治
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大学にはさまざまな学部がありますが、総合大学にはそれぞれの「看板学部」と目される学部が存在することがあります。「○○大学といえば、この学部」といった感じですが、一方で、新設されたばかりでありながら、時代に合った教育で注目される「注目学部」といえる学部もあります。受験生は看板学部と注目学部、どちらを選ぶべきなのか、考えてみます。

■難易度と連動しない「看板」
 ただ、大学の看板学部といっても、ピンとこない受験生も多いのではないでしょうか。今はあまり言われなくなっているからです。看板学部というのは大学発ではなく、受験生を送り出す高校や予備校、保護者などが発しているケースがほとんどです。受験生に聞くと「看板学部といわれても、どの学部だかよく分かりません。友達と話していて、よく話題に出る学部のことかなとは思いますが、それが看板なのかどうか分かりません」と話します。

 そもそも、看板学部といわれるのは、長い歴史のある総合大学の中で、建学の精神に沿った特徴ある学部が多いようです。歴史の浅い大学ではあまりありません。例えば、早稲田大学は1882年に創設された「東京専門学校」が前身です。このとき、あったのが政治経済、法律、英、理の4学科でした。大手大学の前身は法律の学校からスタートしたところが多いのですが、早稲田大学は創立者の大隈重信が内閣総理大臣を務めた政治家だったこともあり、政治経済学部が看板学部とされるようになりました。

 慶応義塾大学は1858年に開塾していますが、大学部を設置したときは文、理財、法律の3学科でした。その中で、他校にはなかった理財学科、現在の経済学部が看板学部といわれています。このように、創立時からの長い歴史、幾多の人材を生み出してきた学部が看板とされるケースが多いようです。

 看板学部の存在を受験生に分かりにくくしている理由の一つが、入試データと連動していないことです。看板学部が大学の中で、必ずしも最難関ではない場合が多いのです。各模試の難易度を見ると、早稲田大学の中で、政治経済学部より国際教養学部の方が高い模試があります。他学部と難易度が並んでいる模試もあり、圧倒的な難関にはなっていません。慶応義塾の経済学部は文系学部内で比較すると、全模試とも法学部の方が難易度は高くなっています。

 さらに、早稲田の志願者数を見ると、政治経済学部は理工3学部を除く文系10学部の中で8番目、つまり、下から3番目です。2021年の政治経済学部は大きな入試改革があり、敬遠する受験生が多かった面もありますが、2020年も7番目にすぎません。志願者数でも大学トップではないのに、受験生に「看板学部」といっても実感はないでしょう。

■ポイントは「何を学びたいか」
 4学科から出発した早稲田大学ですが、その後、新学部を次々と設置しており、注目の学部も新設しています。難易度上昇中の国際教養学部は2004年に設置され、グローバル教育に力を入れる学部で、授業はすべて英語、卒業するまでに留学が必須で、留学生が半数近くいます。

 他にも、2007年に第一文学部と第二文学部が再編され、文と文化構想の2学部が新設されました。文学部が従来の文学のコースを中心にしている一方、文化構想学部では学際的、学問分野横断型の6論系に分かれ、そこで学びます。この2学部は難易度、志願者数ともほぼ同じで、志願者数では政治経済学部を大きく上回っています。

 今の高校生は「大学で何を学びたいか」を中心に学部を選んでいます。だから、各大学で学部新設が続いているのは、将来の学生に向けて、学びのメニューを広げようとしているわけで、今後も「注目学部」は増えていくでしょう。

 看板学部と注目学部のどちらを狙うのか、また、両方に合格したら、どちらを選ぶかは難しいところです。筆者の意見としては、看板学部にこだわる必要はないと思います。かといって、注目学部がいいと即答するものでもありません。何より、「自分の学びたいものは何か」をじっくり考えて選んでほしいと思います。