コロナとの戦いでオセロのように形勢逆転したアジアと英米   花田吉隆 元防衛大学校教授


まるでオセロゲームを見ているようだ。形勢が一気に逆転した。

ほんの少し前まで、英米は共に群を抜く感染者数、死者数で、その惨状は目を覆うばかりだった。
それに対し日本を含むアジアは、感染を抑え込み新型コロナウイルスの制圧に成功したかのようだった。

それが今や英米では、変異株の脅威はあるものの、路上に張り出したレストランで、人々がマスクなしで食事をし、
酒を酌み交わす。景気回復が進み、もたつくアジアとの差が開きそうだ。

アジアで最も深刻なのがインドで、国内では死者を悼む姿が町中にあふれ、医療は既に崩壊した。
ところがここに来てマレーシアが危ないという。

一日当たり感染者数が6000人を超え、5月26日までの7日間平均で、人口100万人当たり感染者数が211人に達したが、
これはインドの165人を上回る数だ(5月29日現在)。

韓国、台湾、ベトナム等、かつて優等生と称された国々も事態が一変し、かくいう日本も他人事でない。

潮目が変わったのが昨年12月2日。この日、英国でワクチンが承認され直ちに全国規模で接種が始まった。
今や、100人当たり接種回数(6月3日現在)で、英国97.7回、米国89.3回と世界の先頭を行く。

欧州で遅れが指摘されるドイツでも62.0回、フランスが54.7回だ。これに対しアジアは大きく出遅れ、
中国48.8回、インド15.6回、韓国16.5回、日本11.7回、台湾2.1回に止まる。

偏にこのワクチン接種のスピードが形勢を逆転した。ワクチンがゲームチェンジャーなのだ。
ゲームチェンジャーは、オセロの盤上の白黒を一気に塗り替える。戦いの帰趨を決定的に左右するからゲームチェンジャーと呼ばれる。


ゲームチェンジャーを見誤ると手痛いしっぺ返しを受ける。新型コロナウイルスが登場した1年余り前、
インペリアル・カレッジ・ロンドンが発表した論文は、「ワクチンが開発され人々に行き渡るまでの2,3年間はコロナとの戦いが続く」とした。

つまり、ワクチンがゲームチェンジャーだと明言した。

それまでの間、人類が持つコロナとの戦いの武器は、古典的な隔離政策しかない。
各地でロックダウンが繰り返されていったが、ロックダウンは経済的痛みを伴う。その痛みに耐えかね経済を再開すれば今度はコロナが襲ってくる。
これまで世界はこれを繰り返すしかなかった。

つまり、徹底的にロックダウンをするならいざ知らず、そうでない限り、「緊急事態宣言はもうこれっきりにしてほしい」と言ってもそうはいかない。
締め付けを緩めれば、コロナは再び襲いかかってくるのであり、我々ができるのは、緊急事態宣言を出したり引っ込めたりして一時しのぎを繰り返すだけだ。
宣言発出を「早めに、広く、厳しめに」すれば少しは効果が上がるが、それが一時しのぎであることに変わりはない。

この、まだるっこしい対応を一気に変えてしまうのがワクチンだ。

結局、英米とアジアとの差は、ワクチンのゲームチェンジャーとしての意味を正しく理解したかどうかだった。
元々、欧米には世界のワクチン開発をリードする大手製薬企業が集中しているというアドバンテージがあったとはいえ、
やはり何といっても、ワクチンが国民の命を守る最大の武器であると早くから認識し、戦略的に対応してきたことが大きい。
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021060400004.html#:~:text=%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3

米国ではワクチンの普及に伴い急速に経済活動が再開し、飲食店にも人出が戻っている=2021年5月25日、米ミネソタ州ブルーミントン
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