私は長く務めた海軍を辞め、英語ができるということで海外戦地から帰国する兵隊の管理する復員省で働くことになった。
アメリカの若い将校と一緒に仕事していたある日、彼は私のメモ帳を見こういった。
「君の手帳はあまりにもぎっしり書き込んであるね。そんなに書き込んだら見にくくて、わかりにくくないか?」
私はこういった。「日本では紙は貴重で高価なんだ。だから大事に使わないとね」
彼は怪訝そうな顔して、「私の国ではそのように紙を大事に使う人はいない。そんな紙もないのに、なんで戦争なんかしたんだ?」
私は苦笑いで取り繕って言葉を濁したが、複雑な心境でつぶやいた。

「紙もないから戦争したんだ」