群馬県富岡市の「富岡製糸場」は25日で世界文化遺産登録7年を迎えた。ただ、新型コロナウイルス感染拡大の影響やブームに陰りもあって、入場者数はピーク時の1割ほどに落ち込み、収入の大幅減に伴って施設の保存整備に充てる基金は今年度中に底をつく見込みだ。登録後、最悪の財政難に陥っている。
 2020年度の富岡製糸場の入場者は17万7419人で、最も多かった14年度の133万7720人と比べて大きく減少。政府による緊急事態宣言もあって、臨時閉場を余儀なくされたことなどが響いた。これまで年間10億円前後の運営費は主に入場料収入や補助金で賄ってきたが、入場料収入は当初見込みの3分の1の1億1500万円にとどまり、イベントを縮小して経費削減に努めたが、職員らの人件費1億円余りは事実上「赤字」となり、市の一般財源から捻出することを余儀なくされた。
 市は、継続的に保存整備事業を進めるため、支出の平準化や将来に備えて、入場料収入の一部や寄付金などを原資として「富岡製糸場基金」を設けている。16年度には10億円近く積み上がったが、入場料収入の減少で残高も年々減り、21年度中に残金7000万円ほどを使い切る見通しだ。
 乾燥させた繭の保管に使われた国宝「東置繭所」の保全修理に向けて、20年度に調査を始めるはずだった計画も見送られた。来年には操業開始150年の節目を迎えるものの、市世界遺産観光部の森田昭芳部長は「当面、新規の整備事業はできないだろう」と厳しい表情を見せる。
 21年度は25万人の入場者を期待するが、榎本義法市長は25日の定例記者会見で「コロナの収束まで我慢するしかない。教育旅行、家族やグループでの来場で、観光が復活するように準備を進めたい」と語った。
 ◆富岡製糸場と絹産業遺産群=明治政府が1872年に操業を開始した富岡製糸場(富岡市)、田島弥平旧宅(伊勢崎市)、高山社跡(藤岡市)、荒船風穴(下仁田町)の4資産で構成される。2014年6月に産業や土木の技術進歩を示す「近代化遺産」として国内で初めて世界文化遺産に登録された。

読売新聞

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