<日本の学校では、いったん就職すると膨大な業務に忙殺されて学び続けることができない>

2012年の中央教育審議会の答申で、教員の資格要件を大学院卒に引き上げようという案が示された。
教員の資質能力の向上が表向きの理由だが、「今は保護者の多くが大卒なので、教員の学歴を一段高くする必要がある」という考えもあってのことだろう。

当時から10年ほど経ったが、現時点では実現を見ていない。
大学院まで行くとなると、在学期間の延長により学費が上昇し、教員志望者が減ってしまう恐れがある。
教育実習を1年間にするというのも、現場の負担を考えると現実的ではない。
こういう事情もあって、学部から大学院までを見越した教員養成カリキュラムは構想にとどまっている。

日本の教員を見ると、大学院を出ている人はわずかしかいない。IEAの国際学力調査「TIMSS 2019」によると、
小学校教員の院卒率は5%、小学校校長では13%となっている。国際調査なので他国との比較もできるが、主要国との比較グラフにすると<図1>のようになる。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/2021/07/07/data210707-chart01.jpg

海外では、大学院を出ている教員の比率が日本よりずっと高い。韓国とアメリカでは、校長の9割以上が大学院を出ている。
管理職になるにあたって、修士ないしは博士の学位が求められるのだろう。ドイツとフィンランドでは、一般教員もほとんどが大学院卒だ。
大学院修士課程まで教員養成カリキュラムに組み込まれているので、おのずとこうなる。

以上は7カ国のデータだが、「TIMSS 2019」の対象の59カ国の中では、日本はどのような位置になるか。
横軸に一般教員、縦軸に校長の院卒率をとった座標上に、各国のドットを配置したグラフにしてみる<図2>。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/2021/07/07/754b71ab71f2da4efe758e35b53d8cc3d160a6d1.jpg

日本は教員、校長とも数値が低いので、左下の原点付近にある。
対極の右上には、最初のグラフで見たドイツやフィンランドの他、スロバキア等が位置している。教員のほぼ全員が大学院卒の国だ。

日本は高学歴化が進んだ社会だが、2つのグラフをみると疑問符が付く。教員の大学院卒率は世界で最低水準。
大学院卒と職務遂行能力の関連のエビデンスはないが、高度な知の証である修士号・博士号保有の教員がもっと増えていい、
いや増えるべきだという考えが出るのは道理だ。知の伝達者としての誇りの源泉にもなる。

冒頭の中教審答申では、教員の全員を大学院卒にしようと提言されたが、フィンランドの制度を意識してか、
教員養成の期間を4年から6年に延ばす構想が示されている。学部4年プラス修士2年だ。

■教員に「ゆとり」を
ただ、学びの機会を入職前に集中させるのはいかがなものか。
上述のように、在学期間の長期化に伴う学費負担、長期実習の受け入れ負担の問題もある。
大学院に行くのは、現場に出て問題意識を培ってからのほうがいい。

既存の大学院修学休業を拡充する、夏季休暇等を使って少しずつ学べるようにするなど、策はいろいろ考えられる。
アメリカでは、こうした斬新的な学びができるようになっていると言う。これぞ「学び続ける教員」の姿だ。
管理職になる頃には、大半の教員が修士ないしは博士の学位を保持していることになる<図1>。

日本の教員は就職後、膨大な業務に忙殺され、学び続けることができないでいる。
最近は文科省も本気になってきて、2019年の中教審答申では、これまで教員が担ってきた業務の仕分けが示された。
学び続けるための条件は「ゆとり」だ。教員を「何でも屋」から、教えることに秀でた高度専門職へと脱皮させなければならない。
その具現度は、大学院卒の教員の率で測れる。

教員免許更新制が見直されることになり、教員研修の在り方を変える機は熟している。
「職務直結・上からの押し付け」型ばかりでなく、教員の自律的な学びの比重を高める時に来ている。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/07/post-96653_3.php