https://news.livedoor.com/article/detail/20528047/

北海道内で今年、ヒグマによる死傷者が確認中も含め9人に上り、被害者数は記録が残る1962年以降過去最多となる見通しだ。
専門家はかつてヒグマの生息地域と人里を隔てていた緩衝地帯が消滅し「すぐ近くにいる」と警鐘を鳴らす。

「今年は市街地付近の同じ場所に続けてクマの目撃情報があるなど、出没が多いと感じる」。
ヒグマに襲われたとみられる性別不明の遺体が山中で見つかった滝上町の職員は、こう語った。

12日午後2時ごろ、同町滝ノ上原野の林道脇の草むらで、頭部から大量の血を流して倒れている遺体を車で通りかかった
森林管理署の職員が見つけ、紋別署に通報した。

同署によると、服装などから登山で訪れた道外在住の60代女性とみられる。遺体近くにヒグマのものとみられるふんがあり、
同署はヒグマに襲われた可能性が高いとみている。

福島町白符でも2日、同様の事案が起きていた。山林近くの畑で前日作業していた70代女性がこつぜんと姿を消し、警察などが周囲を捜索。
損傷の激しい性別不明の遺体が畑付近で見つかった。

道立総合研究機構(道総研)が現地調査すると、ヒグマが掘ったとみられる穴の中に遺体の一部があり、穴は草の塊で覆われていた。
ヒグマが食料を隠す習性とよく似ているという。また、遺体近くで採取された毛はDNA鑑定でヒグマのものと判断された。
道は関係団体と協議し、ヒグマによる事故として公表する方針だ。

現場付近は国道沿いに民家が建ち並ぶ静かな漁業地区。高齢者が多く、空き家も数軒ある。「人を襲うなんて今まで聞いたことがない」。
一人暮らしする80代女性は、不安げな表情を浮かべた。

ヒグマの生態に詳しい道総研の間野勉・専門研究主幹(61)は「過疎化により耕作放棄地が広がり、人里とヒグマの生息エリアを分ける
緩衝地帯がなくなり、気付かぬうちにヒグマがすぐ近くで生活している」と指摘。「(6月18日に4人が負傷した)札幌の事例は
特殊に映るかもしれないが、ヒグマによる事故の原因は共通し、道内のどこでも起こりうる」と警鐘を鳴らす。

厚岸町では4月、山菜採り中の男性がヒグマに襲われて死亡し、富良野市でもハンターの男性が襲われ負傷した。
6月には厚岸町で測量作業中の男性が襲われて負傷するなどヒグマによる人的被害が相次ぐ。これまで年間最多は64年の8人で、
滝上、福島両町での被害がヒグマによるものと断定されれば過去最多となる。

間野氏は、食品のポイ捨てや生ごみの不法投棄、農作物の放置などがヒグマを生活圏に接近させると問題視。
「農作物などに近づけないよう電気柵を設置したり、耕作放棄地で果樹などの伐採や草刈りをしたりするなど管理が必要」と強調する。

道は、ヒグマの保護と共存を目指す政策転換で、66年に始めた春グマの駆除を90年に廃止。
以降23年間で、ヒグマは約1・8倍増加したという。ただ、北海道野生動物研究所(札幌)の門崎允昭所長(82)は
「頭数が増えたというよりも、ハンターの高齢化などで、猟銃による駆除から箱わなによる捕獲へと変わり、
ヒグマが人を恐れなくなったことも(人的被害が増えた)要因」と話す。