東洋経済2021/07/23 4:30
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東京都心部で検討されている地下鉄新路線の整備構想が、実現に向けて一歩前進した。国土交通省の交通政策審議会(交政審)は7月15日、東京の地下鉄網をめぐる答申「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」を赤羽一嘉国交相に提出した。

同答申は東京メトロ株の売却方針とともに、地下鉄有楽町線(東京8号線)の豊洲―住吉間延伸、品川駅と都心部を結ぶ「都心部・品川地下鉄」の2つの新線構想について、東京メトロが事業主体を担うのが適切としたうえで、「早期の事業化を図るべきである」とした。また、臨海部と都心を結ぶ地下鉄構想についても「事業化に向けて関係者による検討の深度化を図るべき」との考え方を示した。

■都と江東区の「約束」
有楽町線延伸と都心部・臨海地域地下鉄は、それぞれ地元の江東区、中央区が整備を求めてきた路線。都心部・品川地下鉄は、リニア中央新幹線の駅整備など再開発が進む品川駅と都心部のアクセス向上を図る狙いの路線だ。いずれも交政審が2016年度にまとめた、今後の東京圏の鉄道整備指針を示す答申に含まれている。

今回の答申を受け、即座に反応を示したのが有楽町線豊洲―住吉間の延伸を求めてきた江東区だ。答申と同じ7月15日、同区の山ア孝明区長は小池百合子東京都知事に対し、「一日も早く、地下鉄8号線延伸の実現に向けた事業スキームを構築し、今こそ豊洲市場開場における本区との約束を果たされるよう」申し入れた。

申し入れの文面にある通り、豊洲―住吉間延伸の事業スキーム構築は、江東区と都の「約束」だ。都は同区内への豊洲市場開設に際して、区と「土壌汚染対策」「交通対策」「新市場と一体となったにぎわいの場の整備」の3つの約束を交わした。この交通対策の柱が地下鉄延伸だ。

都は2018年度中に整備スキームを示すとし、2019年3月末に「都としては、東京メトロによる整備、運行が合理的」としたうえで、同社に延伸した場合の設備などについて調査を依頼すると表明した。

だが、東京メトロは以前から新線建設は行わない方針を示していたため、区はこの内容では「事業スキームというには不十分」と反発。「事業主体や財源の調整もしておらず、スキームではないと認識している」(同区の地下鉄事業推進担当者)というのが区のスタンスだ。

今回の小池都知事への申し入れでも、「約束の履行期限から2年以上が経過した現在においても、いまだに約束は果たされていません」と厳しい表現で早期の取り組みを求めている。同区担当者も「そもそも、都は全力でやっていくと約束している。責任を持ってやっていただきたい」と語る。

■3路線の中ではやや先行? 
有楽町線(東京8号線)の豊洲以北延伸は1972年に答申され、構想はほぼ半世紀にわたる。区は2007年度から豊洲―住吉間について独自調査を実施してきた。

延伸区間の事業性は、国交省が2019年度に実施した調査では良好との評価だ。整備の費用対効果を示し、数値が1を上回れば効果があるとされる費用便益費(B/C)は2.6〜3.0との検討結果が出ているほか、全国有数の混雑路線として知られる東京メトロ東西線などの混雑緩和にも寄与するとしている。2020年からは国と都、東京メトロが駅の構造など技術面に関する勉強会をすでに7回開いており、今回の答申に盛り込まれた3路線の中でも進度としてはやや先行しているといえる。

ただ、約1500億円とされる建設費の負担はもちろん、ほかにも課題はある。新線は東京メトロの他線から利用者が流入することを見込んでおり、メトロの既存路線の減収を招くことが指摘されている。答申も、「メトロへの経営全体への影響も精査した上で支援を検討する必要がある」としており、この点は同社が事業主体となるうえでは課題となりそうだ。

また、東西線の混雑も2020年度の調査ではコロナ禍の影響を受け大幅に緩和されたが、区の担当者は「コロナ禍という状況下であり、今回の数値をもって混雑が解消したとは考えていない。混雑緩和だけでなく、東京東部からのアクセス向上など新線の持つさまざまな意義に変わりはない」と話す。

地元が整備を求めてきた有楽町線延伸とやや異なり、都が中心となっているのが「都心部・品川地下鉄」だ。同線の構想は、都が2015年7月に取りまとめた鉄道ネットワークに関する検討結果「広域交通ネットワーク計画について」において「整備について検討すべき路線」の1つとされ、翌2016年の交政審答申に盛り込まれた。

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