「チーズの値段は1年半で5倍になった。ほとんどの客は買えないわ」。7月下旬、ベイルートの商店街を訪れると、家族で食料品店を営むフーリーさん(50)はため息交じりにこう話した。かつては肉や乳製品などを陳列していた冷蔵ケースは、空っぽのままだ。電力供給も不安定といい、店内は昼間でも薄暗かった。


レバノンは借り入れによる過度な補助金制度などで財政が行き詰まり、2020年3月には債務不履行(デフォルト)を宣言した。その直後に起きたのが、死者200人超、負傷者6500人以上を出したベイルート港の爆発だ。港に保管されていた硝酸アンモニウムが起因とされるが、原因究明には今も至っていない。


この惨事を受け、当時のディアブ内閣が辞職表明に追い込まれた。その後、2度にわたって首相候補が指名されたが、いずれも組閣に失敗。政治の空転で、経済はさらに危機へと近づいた。通貨レバノン・ポンドとドルとの固定相場は事実上崩壊し、現在は2年前の10分の1以下の価値で取引されている。

食料品や燃料の多くを輸入に頼るレバノンでは、通貨安はインフレに直結する。政府の統計当局によると、20年のインフレ率は85%で、今年に入ってからは100%を超えている。中央銀行の外貨準備は底をつき、燃料もまともに輸入できなくなった。6月以降は1日の大半は停電しており、ほとんどの街灯や信号機がともることはない。

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2021年8月4日 11:30
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR025L00S1A800C2000000/