ワシントン・ポスト(米国)


マイケル・フリーディー(39)は、いわゆる「反ワクチン」だったわけではない。
新型コロナウイルスのワクチンをまだ接種していない多くのアメリカ人と同様、
人々がこのワクチンにどう反応するのか、もう少し様子を見てから判断しようと思っていた。

「私たちはただ、1年だけ待とうとしていました」と、フリーディーの婚約者のジェシカ・デュプリーズ(37)は声を震わせながら語る。

だが7月末、フリーディーがコロナに感染してICU(集中治療室)に運ばれると、そんな様子見の姿勢は一変した。
「ちくしょう、ワクチンを打っておくべきだった」

デュプリーズに送ったテキストメッセージにそう後悔の念を綴ったフリーディーは、7月29日に亡くなった。
「子供たちは父親を失ってしまいました。私たちが接種をためらっていたからです」と、デュプリーズはCNNに語った。

彼女はフリーディーが亡くなって以降、さまざまなメディアの取材に応じ、ワクチン接種を呼びかけている。
「私は夫を埋葬するより、ワクチンのひどい副反応のほうを選びます」

アメリカでは感染力の強いデルタ株が拡大するなか、あらためてワクチンの重要性が訴えられている。
にもかかわらず、接種が完了している人の割合はいまだ50%弱で、フリーディーとデュプリーズが暮らすネバダ州では45%にとどまっている。

ワクチン接種後もウイルスを拡散させてしまう可能性が新たに示されたとはいえ、公衆衛生当局は、
とくに重症化と死亡を防ぐという意味でワクチンの有効性は高いままだと指摘している。

現在、アメリカでコロナに感染し、入院または死に至っているケースは、大半がワクチン未接種の人々だ。

接種していない人々の中には、断固として拒む姿勢を見せている層も一定数いる。
だが、その多くはフリーディーやデュプリーズのように副反応を心配して様子を見ている人たちだ。


デュプリーズは、自分たちは決して科学を軽んじていたわけではなく、ただ用心深くしていただけだと話す。
彼女もフリーディーもマスクを着用し、手洗いや消毒もしていた。だが7月半ば、子供たちと一緒にサンディエゴに旅行したとき、気持ちが緩んだようだ。

ビーチでひどい日焼けをしたフリーディーは、救急救命室へ駆け込んだ。食べることも寝ることもできず、悪寒もあったが、とりあえず自宅に帰された。
しかし症状は改善せず、再び救急救命室へ。そこでコロナ陽性の結果が出たが、水分補給と隔離の指示を受けて再び自宅へ帰された。

そして自宅療養をしていたある日、明け方3時にフリーディーは「パニック状態になって」デュプリーズを起こしたという。
彼は息をするのがやっとで、自分の足で立つこともできなかった。2人はすぐに再び救急救命室へ。

フリーディーは酸素吸入器を装着し、強制的に肺を開く機器にもつなげられた。
回復を信じて病床から「長期の後遺症が心配だ」などとデュプリーズにテキストを送っていたフリーディーは7月26日、ICUに移された。

最期のときは残酷だった。テレビで見ていたのと同じだったと、デュプリーズは言う。
「心肺停止だ!」との叫び声が聞こえ、医師や看護師らが除細動器などを持って駆け込んでいき、
メスをよこせとか脈をチェックしろとかいう声が飛び交い、必死の心臓マッサージが続けられ……。

「私はただ見ているだけしかできなかった。病室の後ろのほうで、みんなの邪魔にならないように」

フリーディーの顔は紫色に変わり、そのまま帰らぬ人となった。
https://courrier.jp/news/archives/256737/

新型コロナウイルスに感染して亡くなったマイケル・フリーディー。6歳と1歳半の子供を残して帰らぬ人となった
https://courrier.jp/media/2021/08/10001500/virus-fiance-6d255538-f313-11eb-9068-bf463c8c74de-e1628490169108-1600x900.jpg
https://courrier.jp/media/2021/08/10001456/0d40a5e4a645fc6b96e767d64ac0878e-625x351.jpg