幸いなことに、新型コロナワクチンはデルタ株に対しても有効だ。「どのワクチンもかなりの効果を示しています。
とりわけ重症化を予防します」とカナダ、トロント大学の感染症疫学者ジェフ・クォン氏は言う。

米モデルナ社および米ファイザー社のワクチンが、デルタ株に対する予防効果を保っていることは、多くの研究によって証明されている。
ワクチン接種状況とともに感染例のデータを追跡している州では、ワクチンの接種を終えていない人たちが新規感染者の90%以上を占めている。

「ワクチンが、入院に至るほどの深刻な病状悪化のリスクを大幅に減らすのは確かです」と、英エジンバラ大学の初期医療の専門家アジズ・シャイフ氏は言う。

CDCは、新型コロナのワクチンはデルタ株による感染リスクを3倍、入院・死亡のリスクを10倍低下させると、7月29日のワクチンに関する報告で発表した。
しかし、全国的に検査が不十分であることから、デルタ株やその他の変異株がどの程度広がっていて、ワクチンが実際にどれほど有効かを正確に知るのは難しい。

集団の中でデルタ株の感染率が上がれば、ワクチンの接種を済ませた人たちであっても、いわゆる「ブレイクスルー感染」を起こしやすくなる。

7月21日付けで医学誌「New England Journal of Medicine」に発表された研究では、
英アストラゼネカ社およびファイザー社のワクチンを2回接種した場合、デルタ株による症状に対してそれぞれ60%、88%の予防効果があるとしている。

米国で投与されているワクチンの大半(モデルナ製とファイザー製)は、最大限の保護効果を得るには2回の接種が必要とされる。
これらのワクチンは、1回のみの接種ではデルタ株に対する効果が著しく低いと、パリ、パスツール研究所ウイルス・免疫ユニットを率いるオリビエ・シュワルツ氏は言う。

デルタ株などの新規変異株に対する有効性に関するデータを受け、ファイザー社は同社ワクチンの追加接種の承認を目指している。
モデルナ社もまた、最新のmRNAワクチンの追加接種の試験を行っている。

米食品医薬品局(FDA)は、近々新型コロナワクチンの追加接種計画をまとめると見られている。

ドイツでは、弱い立場にある人たちを対象に、mRNAワクチンの追加接種を9月に開始する予定だ。
一方で、追加接種は、富裕国と貧困国の間にある新型コロナワクチンの格差を拡大してしまう。

「WHOは、少なくとも9月末までは追加接種を停止し、最低でもすべての国で人口の10%がワクチン接種を終えられるようにすることを求めます」。
WHOのテドロス事務局長は記者会見でそう述べた。

イスラエル政府が発表した初期のデータによれば、ファイザー社のワクチンの有効性は6カ月以内に低下する可能性があるという。
ただし、ワクチンの設計者は抗体反応を長く持続させるのは難しいことを最初から知っており、これは意外なことではない。

SARSやMERSのウイルスに対する抗体は1、2年で減少した。一般的な風邪を引き起こすコロナウイルスの場合、
3〜6カ月で、1年以上になることはまずない。

米国で行われたある研究では、モデルナ社製ワクチンの2回目接種の後、中和抗体が6カ月にわたって血液中に高濃度で残ることが示された。
論文は7月7日付けで「New England Journal of Medicine」に発表されている。

「これらの抗体は、ほとんどの場合、(デルタを含む)多くの変異体を中和します。
ただし、抗体反応は時間の経過とともに弱まっていきます」と、この研究を主導したエモリー大学のスザー氏は述べている。

ワクチン接種を終えた人たちの1%以下に起こるブレイクスルー感染の大半は、軽症あるいは無症状感染だ。
米国で接種を終えた1億6400万人以上のうち、2021年8月2日までにブレイクスルー感染して入院あるいは死亡した患者は7525人にとどまっている。

ブレイクスルー感染を起こしやすいのは、感染した患者と頻繁に接触する医療従事者、高齢者、がん患者や臓器移植経験者などの免疫力が低下している人たちだ。
ブレイクスルー感染はまた、大勢が集まる場所、レストラン、人の多い職場、屋外・屋内でのパーティといった、人と密接に触れ合う状況で起こりやすい。

ソーシャルディスタンスの保持やマスク着用などは、ワクチンの接種とともに、ウイルスの広がりを抑える有効な戦略だ。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/081100396/