https://news.yahoo.co.jp/articles/81445825134c9e4d7c3aa72d8a5262f865a0ec1f
自動車タイヤのゴムには、天然ゴムと石油由来の合成ゴムが使われている。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等が、この合成ゴムを植物由来のバイオエタノールから作ることに成功し、自動車タイヤも試作した。
なんのために、どのような製法で試作タイヤが作られたのだろうか。

■地球環境保護に寄与するバイオマス由来の合成ゴム
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、
横浜ゴム株式会社と共同で、石油由来の合成ゴムの代替品として、バイオマス(※)由来の合成ゴムの開発・研究を進めている。
これは、タイヤ製造における石油依存を低減し、二酸化炭素の排出を削減。
※略

現在のタイヤに使用されているゴムは、天然ゴムと石油由来の合成ゴムからなる。
一般社団法人日本自動車タイヤ協会が2019年に発表したデータによれば、タイヤ原材料重量構成比で見てみると、51.3%をゴムが占めており、
そのうち天然ゴムが占める割合は約60%、石油由来の合成ゴムは約40%だ。
つまり、石油由来の合成ゴムの代わりにバイオマス由来の合成ゴムを使用することで、タイヤゴムの石油依存度を約40%低減させることができるのだ。

産総研が大型触媒反応装置の設計・製作と、バイオブタジエンの大量合成を担当。
ADMATが生成されたバイオブタジエンの蒸留による高純度化を、横浜ゴムが高純度バイオブタジエンの重合によるゴム化と、それを原料としたタイヤ試作を担当する。

■2019年にバイオエタノールからブタジエンゴムを生成
同プロジェクトは2019年7月、サトウキビ・トウモロコシ・廃木材などから製造されたバイオエタノールからブタジエン(以下、バイオブタジエン)を生成する触媒システムを開発。
そして、生成したバイオブタジエンを用いたバイオブタジエンゴムの合成に成功した。
ブタジエンとは、タイヤの合成ゴムの素材であるブタジエンゴムの原料となる基礎化学物質である(ブタジエンは通常、石油精製の副産物として生成されている)。
さらに2020年には、より最適な触媒の開発に成功。2019年時と比べて約1.5倍のバイオブタジエン収率(※)を実現した。
※バイオエタノールから理論上得られる最大ブタジエン量に対する実際に得られたブタジエンの割合。

複数の反応器を用いて並行して触媒反応を行い、自動的にデータを解析する装置「ハイスループット触媒開発装置」を用いたことでデータ収集が迅速化。
そのデータを基に、バイオエタノール処理量を1時間あたり1.0Lまでスケールアップできる大型触媒反応装置が設計・製作された。
これは、従来の処理量の約500倍になるという。
その上で、反応温度やエタノール流量などの反応条件の最適化や、生成したバイオブタジエンの捕集方法の改良なども実施。
それにより、連続的に約20kgのバイオブタジエンを生成することが可能となった。そして、バイオブタジエンを用いてバイオブタジエンゴムが生成された。

■イオエタノール由来の合成ゴムを用いたタイヤの試作に成功
新しいシステムによって生成されたバイオブタジエンゴムを原料として、自動車用タイヤの試作も行われた。
横浜ゴムが市販しているグランドツーリングタイヤ「BluEarth-GT AE51」185/60R15サイズのキャップトレッドとサイドウォールをバイオブタジエンゴムに置き換えたのだ。

キャップトレッドとは直接路面に接する部分のことで、グリップや摩耗の抑制といったタイヤ性能を司る重要な部分でもある。
一方、タイヤの側壁にあたるサイドウォールは、走行中に荷重がかかったり衝撃を受けたりすることで、衝撃や遠心力に耐えることができる。
いずれも、強度の要求される重要部分である。それを、今回の置き換えにより、石油ゴム不使用を実現することとなった。

今回の試作タイヤでは、素材を変更しただけで市販品と同等の性能が得られたという。バイオブタジエンゴムの性能には期待大である。

同プロジェクトは、この成果を実用化するための「材料設計プラットフォーム」(MDPF)構想が進行中。
MDPFの一部をなすハイスループット触媒開発装置群の構築とデータ蓄積を続けていくという。
それにより、さらなる生産性の向上や他の材料開発への適用などを加速させ、脱炭素社会を実現するために貢献していくとしている。