知名度抜群の河野太郎行政改革担当相が、自民党総裁選に名乗りを上げた。10日の記者会見で「日本を前へ進めていきたい」と高らかに宣言。不得手とされてきた根回しを周到に図り、持論の脱原発も「異端児」ぶりも封印し、派閥横断的な支持拡大を目指す。だが、持ち味の歯に衣(きぬ)着せぬ言動が影を潜めれば、改革派のイメージが失われてしまうジレンマも抱えている。

 「実行力、突破力では誰にも引けを取らない。調整力も優れているのではないかと自負している」。河野氏は会見で自らの長所についてこう力を込めた。ワクチン接種や行政上の押印義務の廃止といった成果を強調した。

 だが、熱心に取り組んでいた「原発ゼロ」については「安全が確認された原発は当面、再稼働していくことが現実的」と回答。昨夏、女系天皇容認論に踏みこんだ発言も、この日公表した政策パンフレットで「政府有識者会議の議論を尊重する」と軌道修正。「党を変え、政治を変える。」というキャッチフレーズに関する質問には「(党内の意見に)まんべんなく耳を傾ける」とはぐらかした。

 かつて永田町で「破壊者」「変人」の異名を取ったキャラクターとは打って変わった「国会答弁のよう」(党重鎮)なやりとりに。保守層や党内実力者にも気を配り、優等生を演じきる姿に、党内の若手や中堅に限らず幅広い支援を得ようとする狙いが透けて見えた。だが、党内からは「変貌ぶりが逆効果になる」との懸念の声も漏れる。

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 「やるならしっかりやれ。負けると具合が悪いから」。9日午後、財務省を訪ねた河野氏に、所属する麻生派(53人)の会長、麻生太郎副総理兼財務相は激励の言葉をかけていた。

 3日の菅義偉首相の退陣意向表明以降、河野氏が麻生氏の元を訪れるのは4日連続。関係者によると、麻生氏は周囲に「分かっちゃいない」と漏らし、河野氏が総裁選に勝利しても「短命」に終わることを恐れていたという。そんな麻生氏が容認姿勢に転じたのは、河野氏が派の幹部や党重鎮の元を丹念に回って、頭を下げる姿を見せたからだという。

 派内の若手・中堅には「選挙の顔」となりうる河野氏への期待が高い半面、ベテランの間には唐突な方針転換や強行突破を見せる河野氏への拒否感も根強い。

 ある重鎮は河野氏から「(陣営の)選対に入ってください」と要請されたが断ったという。派内で、気心の知れた岸田氏を推す人も「3割はいる」(麻生派関係者)とされ、派閥全体の支持を得るのは難しい情勢だ。

 「(麻生)会長からは激励をいただいたので、支持を得ていると思っている」と強気の構えを崩さなかった河野氏だが、頼みの党員・党友票でも頭一つ抜けられるかどうかは予断を許さない。麻生氏周辺は「誰を支持するか、今回はゼロから決めることになる」と語っている。 (河合仁志、久知邦)

西日本新聞 2021/9/11 6:00
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