人間を始めとする哺乳類は400〜700nmの光の波長を検知するため、通常は近赤外線のような750nm以上の波長を認識することができないようになっています。
このため、夜間に物体を把握するためには赤外線カメラで物体の放射する赤外線を可視化する必要がありますが、赤外線カメラは大きくかさばるのが難点。

そんな中、研究者はナノ粒子を目に注入することで赤外線を検知できるようになる技術を開発しており、アメリカ化学会の国内会議でその進捗が報告されました。

中国科学技術大学のTian Xue氏とマサチューセッツ工科大学のGang Han氏が率いる研究チームは、
光変換を起こすナノ粒子をコンカナバリンAと呼ばれるタンパク質で強化して網膜に付着するようにし、マウスの目に注入するという実験を行いました。
このナノ粒子は赤外線光を緑色光に変換するものであり、網膜の視細胞上にナノ粒子のレイヤーが形成されることで、マウスは赤外線を感知できるようになったとのこと。

この研究が初めて発表されたのは2019年2月のこと。「人間もいつの日か暗視できるようになるのではないか」ということで、研究は大きな注目を浴びました。


そして、2019年8月27日付で、研究者たちはアメリカ化学会の国内会議でその進捗を報告しました。
Han氏は「私たちが宇宙を見上げた時に見ることができるのは可視光線だけです」「しかし、近赤外線を感知できるようになれば、全く新しい方法で宇宙を見ることができるようになります。
裸眼による赤外線天文学が可能になり、また大きな機材がなくとも暗視が可能になります」と述べました。

2月に発表された論文では、アップコンバージョンナノ粒子(UCNP)が用いられていましたが、これについてHan氏は
「我々が用いたUCNPは無機物であり、いくつかの問題があります。生体適合性があるのかはっきりしておらず、また、人間の目に適合させるにはナノ粒子をより明るくする必要があります」と見解を述べました。

これらの問題を解決するために、研究者らはいくつかのナノ粒子の効果や安全性をテストしている段階とのこと。
以前の研究のようにレアメタルを使うのではなく、有機染料から作った2種類のナノ粒子で実験を行ったところ、目が感じ取る明るさを向上させることができたとHan氏は語っています。
有機染料を使ったナノ粒子は機能が向上しただけでなく、規制のハードルが低いという点にもメリットがあります。

また直近の実験では、マウスの目に注入したナノ粒子が副作用なく10週間も効果を持続させたことが確認されています。


研究者は次なるステップとして、犬に暗視の力を与えることを考えているとのこと。
将来的にこの技術により、「近赤外線をトリガーにナノ粒子から視細胞に対して薬を放出させる」といったことが可能になるとみられており、医療分野での活用も期待されています。

https://i.gzn.jp/img/2019/08/28/nanoparticles-humans-night-vision/00.jpg
https://i.gzn.jp/img/2019/03/01/nanotech-injections-mice-infrared-vision/00_m.jpg
https://i.gzn.jp/img/2019/08/28/nanoparticles-humans-night-vision/001.jpg


2019年08月28日 19時00分
https://gigazine.net/news/20190828-nanoparticles-humans-night-vision/