鉄道文化がまた一つ姿を消す。JR西日本は秋のダイヤ改正に伴い、在来線用の「ポケット時刻表」を廃止する。ダイヤを手軽に検索できるスマートフォンが普及し、手に取る人が少なくなっていたからだ。他の鉄道会社も次々に廃止しており、鉄道ミステリーの第一人者である作家の西村京太郎さん(91)は「寂しい」と話している。

 「この時刻表は10月1日まで」。JR大阪駅(大阪市北区)の改札口には、10冊以上積まれたポケット時刻表とともに、こうした告知がされている。10月2日のダイヤ改正に伴って配布を終えるのだ。

 JR西のポケット時刻表には、蛇腹に折り畳める「名刺型」や新書判サイズの「冊子型」がある。ダイヤ改正ごとに新しい版を発行しており、各駅で無料配布してきた。国鉄の分割民営化で会社が発足した1987年以前からあったといい、「旅のお供」と親しまれてきたが、デジタル化の波に押されて近年は使う人が減っていた。京阪神地区では今春のダイヤ改正の際、242万4000冊を用意。前年の春に比べれば半分に減らしたものの、余る実態があった。

 中国・北陸地方では既に配布をやめている場所があり、全社で終了することにした。担当者は「時代の流れ。新型コロナウイルスの感染拡大で、『非接触』のニーズも高まっている」と説明する。ダイヤの確認は今後、JR西の公式アプリ「WESTER」を活用するよう呼び掛けている。

「役割終えた」と鉄道会社が次々廃止
 JRグループでは東海、九州が既に廃止し、東日本も首都圏の一部地域でやめている。私鉄は小田急電鉄(東京)、名古屋電鉄(愛知)、阪急電鉄(大阪)、京阪電鉄(同)などが廃止済みだ。ある鉄道会社の担当者は「廃止されて不便を感じる人はほとんどいないのでは。ポケット時刻表は役割を終えた。経費も削減でき、各社も追随するだろう」とみている。

 こうした動きについて、トラベルミステリーの「十津川警部」シリーズで知られる西村さんは「寂しい。取材旅行に大きな時刻表を持ち歩くことは大変で、重宝していた。上着のポケットからのぞかせて、『鉄道通』と格好をつけたりしたものだ。確かにインターネットは便利だが、検索結果はどれも同じ答えになる。小説を構想する上でも、『迷い』はあった方がいい。ポケット時刻表には自分で調べるという面白さがある。復活してほしい」と話している。

 JR西は新幹線用はポケット時刻表の配布を継続する。在来線についても、一部の駅では独自に製作して配布を続ける可能性もあるという。【高橋昌紀】

毎日新聞 2021/10/1 06:00
https://mainichi.jp/articles/20210930/k00/00m/040/284000c