世界の指導者、政治家、富豪らが莫大な資産をひそかに保有し、タックスヘイブン(租税回避地)に設立した会社を通して取引をしてきた様子が、大量にリークされた資料から明らかになった。

この資料は「パンドラ文書」と呼ばれる。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手し、検証している。

現職や過去の指導者約35人や公職者300人以上が、国外のタックスヘイブンに設立した会社を通して不動産取引などをしていた様子が示されている。

例えばヨルダンのアブドラ国王は、イギリスとアメリカで計7000万ポンド(約105億円)の資産価値がある不動産をひそかに購入していた。

一方、イギリスのトニー・ブレア元首相と妻は、2017年7月にロンドン中心部のオフィスビルを購入した際に、印紙税31万2000ポンド(約4700万円)を納めていなかった。

ブレア夫妻は、オフィスビルを所有する国外企業を買収する方法で、同ビルを入手していた。これはイギリスでは合法で、印紙税の支払い義務が発生しない。

ただブレア氏はこれまで、税制の抜け穴の悪用を批判してきた人でもある。弁護士でもあるブレア氏の妻シェリーさんは、売り主が国外企業を通して同ビルを購入するよう言い張ったと説明した。

入手したロンドン・マリルボーン地区のオフィスビルには現在、シェリーさんの法律事務所や女性支援基金の事務所が入っている。シェリーさんの会社は各国政府に法律アドバイスを提供している。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領については、モナコの隠し資産との関連が浮上した。総選挙を目前にしたチェコのアンドレイ・バビシュ首相は、フランス南部の邸宅2軒を1200万ポンドで購入した際に利用した国外投資会社に関して、その存在を公表していなかった。

世界のリーダーらの資産や取引をめぐっては、この7年で「フィンセン文書」、「パラダイス文書」、「パナマ文書」、「ルクスリークス(ルクセンブルク・リークス)」の資料が明らかになっている。

それらに続く今回の「パンドラ文書」の取材プロジェクトには、世界の記者650人以上が参加。ICIJのプロジェクトとしては最大規模となった。イギリスはBBCパノラマとガーディアン、日本からは朝日新聞と共同通信が参加した。

入手した資料は、英領ヴァージン諸島、パナマ、ベリーズ、キプロス、アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポール、スイスなどの国々にある14の金融企業の約1200万件の内部書類。

指導者の一部に対しては、汚職や資金洗浄(マネーロンダリング)、租税回避の疑いがかけられている。

ただ、今回のプロジェクトの注目点の1つは、著名人や資産家がイギリスの不動産をひそかに購入するため、合法的に会社を設立していた状況が明らかになったことだ。

資料では、不動産購入に関わった国外企業9万5000社の一部について、所有者が判明した。

不動産購入をめぐっては、資金洗浄に利用されているとの懸念がある。英政府は、外国の不動産所有会社を登録する制度を導入すると繰り返し約束しているが、それが実現しないことによる影響の実態が浮かび上がった。

11歳少年がロンドンのビル所有

例えば今回、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領と側近らが、イギリスで4億ポンドを超える不動産取引にひそかに関与していたことが明らかになった。同大統領と家族に対しては、自国の資産を略奪しているとの非難が出ている。

アリエフ氏の家族はイギリスで17件の不動産購入をしていた。うち1件はロンドンの3300万ポンド相当のオフィスビルで、所有はアリエフ氏の11歳の息子名義になっていた。

アリエフ氏による不動産取引は、英政府の面目をつぶす可能性もある。同氏側は2018年、ロンドンで所有する不動産をエリザベス女王の不動産を管理する財務省管轄の「クラウン・エステート」に売却し、3100万ポンドの利益を得ていたとみられるからだ。

「パンドラ文書」で判明した取引の多くは、違法ではない。

しかし、ICIJのファーガス・シール氏は、「これほどの規模はかつてなかった。国外企業が怪しげな資産を隠したり、税金を避けたりするために利用されている現実が明らかになった」と述べた。

「指導者らは、国外に設置した口座や信託を使い、別の国で巨額の不動産を買っている。自国民を犠牲にして、自分の家族に富をもたらしている」
https://www.bbc.com/japanese/58784715