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高円寺駅前で演説する立憲民主党の吉田晴美(10月24日)SOICHIRO KORIYAMA FOR NEWSWEEK JAPAN

<10月の衆院選で野党が敗北した理由は、彼らの統一候補が「象徴的勝利」を収めた東京8区にこそ詰まっている──ノンフィクションライターの石戸諭氏が本誌11月9日発売号に寄せるルポから前半部分を先行公開>

(中略)

■2年前に始まっていたすれ違い

選挙戦以前から、リベラル系野党は一貫して立憲、共産党を中心に「野党共闘」によって選挙区で一騎打ち構造を作れば、与党を追い詰めることができるという「理想」を語ってきた。

野党共闘を支援する「市民連合」を介して、憲法改正への反対や脱原発といったリベラル色の強い共通政策をまとめて全国213の選挙区で共闘を成立させたのも理想へと近づく一歩、となるはずだった。共闘を主導した枝野の立場からすれば「市民と野党の統一候補」が、大物政治家から議席を奪った東京8区は誇らしい成果になるだろう。

だが、ここで枝野の認識にはいくつかの疑問が付される。第一にそもそも野党側が本当に狙い通りに挙げた成果だったと言えるのか。第二に山本太郎が結果的にもたらしたものの効果、第三に自民党の戦略ミスだ。

第一の点から見ていこう。どう客観的にみても吉田が正式に統一候補になるまでの道のりは紆余曲折がありすぎた。

10月8日に突如、れいわ新撰組の代表・山本太郎が東京8区から出馬すると新宿駅前で発表した。彼自身は詳細を語らなかったものの、立憲側との調整は済んでいるという認識を示し、その場にいたあるジャーナリストはマイクを握り「立憲、共産から裏は取っている。山本さんが統一候補だ」と明言した。

これに対し、枝野はメディアを前にして「困惑している」と語った。さらに吉田の支援者からの抗議活動も活発化するなか、山本はわずか3日後に選挙区からの出馬を見送ると表明せざるを得なくなった。

一見すると山本のパフォーマンス、あるいは根回し不足に見える。だが、問題の本質はそこにはない。山本自身が明らかにしたように、2年前から8区からの出馬を打診していたのは立憲側だ。

東京8区で「市民連合」の役割を担っていた市民団体事務局の東本久子の証言がそれを裏付ける。彼女は8区の野党共闘について一貫して当事者としてかかわり、裏も表も精通したキーパーソンだ。

■ちぐはぐな調整

東本が衆院議員会館で、立憲の都連幹部から「8区は山本太郎を統一候補でどうか。吉田は何らかの処遇をする」と最初に直接言われた時期は、山本の証言と符号する。彼女によれば、2020年に入ってからも交渉の過程で都連幹部は何度も「山本太郎」の名前を出してきたが、当の吉田本人や、共産側との話し合いも進んでいるようには見えなかったという。

事実、彼女の前で吉田自身は解散日程がメディアを賑わす時期になっても「私は絶対に8区で戦いたい」と口にしている。本人が「ノーコメントとさせてほしい」と答えたので、実際のところはわからないが「参院選立候補を打診された」といった噂が選挙区を駆け巡った。

8区から出馬を表明していた共産党の上保匡勇は「もともと、8区は野党共闘の対象ではなかった。立憲側からは私たちに候補者調整について何の打診もなかった。自分たちから降りようがない」と明かす。

東本の証言――「私が立憲の都連幹部に問うたのは、なぜ山本さんなら選挙区で勝てるのか。根拠を示してほしいということだった。これに対して、明確な答えは一切返ってこなかった。密室で候補者を決めて、名前を優先した選挙で小選挙区を勝とうなんて認識が甘すぎる。実際に選挙で実務を担うのは地域を知っている私たちだ。地域を回ってきた反応をみた上で、吉田さんで十分に勝てるし、山本さんではまとまらないと言ってきた」

彼らは彼らで、足元を固めるために共闘を前提に野党の候補者同士での勉強会を取り持ち、足で稼ぐために地元の回り方なども細かくプランを練っていた。主眼においたのは無党派層の取り込みだ。

固定票が見込める石原との対抗軸をどこに持ってくるか。政策だけでなく、「山形の八百屋の娘」という打ち出し方も足元の感触から周到に練られたものだった。山本との出馬調整を優先した立憲都連の対応は足元で地道に活動していた東本らの積み上げと明らかな温度差があった。

(以下略。記事全文はソース元にて)


2021年11月3日(水)19時13分
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