静岡ナンバーだけでなく、関東や関西など県外ナンバーの車が次々と吸い込まれていく。JR静岡駅から車で約15分。全国のサウナ愛好家「サウナー」が聖地と呼ぶサウナしきじ(静岡市駿河区敷地)は人であふれていた。

 しきじは、競売に出ていたサウナ店を愛好家だった現オーナーが2005年に購入、改修してオープンした。当時は「サウナは中高年男性の憩いの場」というイメージもあり、1日10人ほどの客しか来ない日もあったという。

 入浴客が増え始めたのは2015年前後。店長の大村英晴さん(56)は「しきじを取り上げたブログや口コミが要因では」と驚く。最近のサウナブームも追い風になり、若い世代や女性の人気も広がる。

 玄関に入ると、芸能人らのサインやメッセージが多数並んでいた。今では男女比が7対3ほどで、20〜30代の客が増えた。平日で男女合わせて200人、休日は約400人が訪れ、特に休日は入場制限するほどの人気ぶり。車内に待機してもらうこともあるという。

 全国の愛好家をひきつけるものは何か。サウナしきじのオーナーの娘で、サウナ・水風呂のプロデュースなどもしている温浴プロデューサーの笹野美紀恵さんは「なにより水風呂の水質の良さが評判を呼んでいる」と話す。しきじでは安倍川水系の天然地下水をぜいたくにもかけ流しで使う。飲むこともできるこの天然水の水温は約17度。「ミネラル豊富な軟水で水道水とは違った入り心地になる。やさしく包み込まれるような感覚がある」という。

 サウナにも特徴がある。110度ほどの「フィンランドサウナ」と十数種類の韓国の薬草が入った袋がつるされ、薬草の香りが立ちこめる「薬草サウナ」の2種類が男女ともに設置されている。

 まずはフィンランド式へ。「最高で120度にもなります」と大村さん。ただ、乾燥しているため、温度ほどは熱さは感じない。一方、薬草は温度計は60度ほどだが、足元から絶えまなく蒸気が上がるため、皮膚がヒリヒリするほど熱く感じた。「特に若い人に薬草サウナが人気。でも初めての方は体調を崩すかもしれないので、短時間がおすすめです」(大村さん)

 汗を洗い流して、火照った体で水風呂にざぶん――。サウナと水風呂を繰り返す「温冷交代浴」が心身共にリラックス効果をもたらし、愛好家が言う「ととのう」状態にいざなわれた。

 2階の休憩室には食堂もあり、24時間営業で宿泊も可能だ。テレビもあり、最近の漫画まで置いてある。リクライニングチェアに身を任せ、思い思いの時間を過ごすことができる。

 施設は新しくないが、隅々まで清潔にされていることに気づく。入り口で渡される館内着とタオルはビニールパックされ、ホテルのように歯ブラシが各所に設置されるなど、細やかな心づかいにあふれている。

 笹野さんは「手間がかかりますが、清潔好きの父親のこだわり。タオルなどの洗濯には天然水を使ってるんですよ」と話す。天然地下水と本格サウナだけじゃない。愛好家たちが聖地と呼ぶのは、こんな「おもてなし」にも理由がありそうだ。(黒田壮吉)

     ◇…(以下有料版で,残り200文字)

朝日新聞 022年1月3日 13時57分
https://www.asahi.com/articles/ASQ12730ZPDKUTPB036.html?iref=pc_photo_gallery_bottom