スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクがメディア「プロジェクト・シンジゲート」に「ヨーロッパを守るとはどういう意味か?」と題した記事を寄稿。難民対応へのダブルスタンダードを批判し、ヨーロッパを守るための最善の方法について、ロシアや中国よりも良い選択肢を提供できると他国に示すことだ、と論じている。

■二重基準「誇りと恥」

ロシアのウクライナ侵攻を受け、スロベニア政府は即座に20万人のウクライナ人難民を受け入れる用意があると宣言したと、現地メディア「トータル・スロベニア・ニュース」などが伝えている。

このニュースについてジジェクは「私はスロベニア国民として、誇りに思うと同時に恥ずかしくも思った」と記し、スロベニア政府が、アフガニスタン難民の受け入れを拒否し、ベラルーシからポーランド国境に大勢の移民が押し寄せる「移民危機」が起こった際にはヨーロッパが攻撃を受けていると主張して、排除を支援した事例と対比させている。

現在は削除されたものの、2月25日にスロベニア政府が「ウクライナからの難民は文化的、宗教的、歴史的な意味で、アフガニスタンからの難民とはまったく異なる環境からやって来た」とツイッターに投稿したことにも言及。「不愉快な事実が明らかになった。ヨーロッパは非ヨーロッパから自身を守らねばならない、ということだ」と記している。

こうしたやり方についてジジェクは、「地政学的な影響力をめぐる世界的な争いの中で、ヨーロッパにとって破滅的なものになるだろう」と指摘。メディアとエリートは、この争いを西側の「リベラル」圏とロシアの「ユーラシア」圏の対立として捉え、ヨーロッパを注意深く観察する南米、中東、アフリカ、東南アジアなどの国々を無視していると警鐘を鳴らす。

■「非ナチ化」自問せよ

さらに、ジジェクは、侵攻に踏み切った理由としてロシア側が挙げた口実を分析。

北大西洋条約機構(NATO)が東方拡大し、周辺の国々で民主化運動を扇動し、前世紀に西側諸国から攻撃されたロシアが抱く当然の不安を無視した、というプーチン大統領の言い分に関して、真実の一端があるとしつつも「大国には勢力圏への権利があり、世界の安定のために他国は従わなければならないということを認めている」と指摘する。

さらに、プーチン大統領はウクライナの「非ナチ化」を求めていると報じられているが、この点に関してプーチン大統領のロシアに自問を推奨。プーチン大統領に影響を与えているとされる思想家のロシア版ファシズムを提唱したイワン・イリインと、イリインの足跡をたどりながら歴史主義的相対主義という「ポストモダンの飾り」を加えたアレクサンドル・ドゥーギンに言及している。

ドゥーギンは、英「BBC」のインタビューに以下のように語っている。

「すべての真実とされるものは、信じることの問題です。だから、私たちは自身のすることを信じ、自身の言うことを信じるのです。そして、それが真実を定義する唯一の方法なのです。だから私たちには、受け入れてもらうべき、特別なロシアの真実があるのです。

もしアメリカが戦争を始めたくないのであれば、米国はもはや唯一無二の支配者ではないと認識する必要があります。そして、シリアとウクライナの状況においては、ロシアは『いや、あなたはもうボスではない』と言います。これは、誰が世界を支配しているのかという問題です。戦争だけが現実を決めることができるでしょう」

しかし、このドゥーギンの主張に関して、ジジェクは「シリアやウクライナの人々はどうだろうか?彼らもまた真実を選べるのか、それとも世界の支配者となるであろう者たちの戦場に過ぎないのか」と問い返す。

さらに、プーチン大統領は「非ナチ化」を掲げたにもかかわらず、フランスの「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首、イタリアの「同盟」のマッテオ・サルヴィーニ党首ら、実際のネオ・ファシスト運動を支援しているとも指摘している。

■ロシアの真実「都合のいい神話」

ジジェクは、こうした「ロシアの真実」は、プーチンの帝国的ビジョンを正当化するための都合の良い神話に過ぎず、ヨーロッパがこれに対抗する最善の方法は、植民地化や搾取をされてきた発展途上国や新興国との架け橋を築くことだと提案する。

さらに、「ヨーロッパを守る」ための真の課題は、ロシアやこの機会を利用して台湾侵攻に出るのではないかと懸念されている中国よりも、西側諸国が優れた選択肢を提供できると他の国々に示すことであり、そのためには、新植民地主義を根絶することによって、自身を変えるしかないと強調。(続きはソース)

3/13(日) 9:30配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/b98db3f9837810631b333e77e6da5ee6f7e3c404