【ロンドン=板東和正】ベラルーシの反体制ハッカー集団「サイバー・パルチザン」の広報担当者、ユリアナ・シェメトヴェッツ氏(28)が産経新聞のオンライン取材に応じ、ウクライナ侵攻で、ロシア軍が部隊などの輸送に使っているとされるベラルーシの鉄道システムへのサイバー攻撃に成功したと明らかにした。「ベラルーシの独裁政権だけではなく、プーチン露大統領とも戦う」とし、ウクライナの露軍への抵抗を側面支援する意向を示した。

サイバー・パルチザンは2020年、強権的なベラルーシのルカシェンコ大統領に対抗するために結成された。鉄道などインフラへのサイバー攻撃で高い技術を有しているとされる。

シェメトヴェッツ氏によると、ハッカーらは昨年末にはベラルーシの鉄道システムに侵入し、同国に露軍が部隊を派遣した今年1月にサイバー攻撃を開始、その移動を妨害した。同氏は攻撃について「『われわれはベラルーシ国内に露軍が入ることを受け入れていない』とのメッセージだ」と語った。

サイバー・パルチザンは露軍のウクライナ侵攻開始後も攻撃を続け、鉄道は手動による運行管理を強いられたという。その結果、ウクライナに向けた露軍の部隊などの輸送が遅れ、「ウクライナ軍が首都の防衛態勢を強化する時間を得ることにつながった」と、成果を強調した。

ハッカーらは引き続き鉄道システムに侵入した状態にあり、再度の攻撃の可能性を指摘。「ロシアのインフラに直接攻撃することはない」とする一方、ウクライナ側にはロシアへのサイバー攻撃に有用な情報や知見を提供しているという。

サイバー・パルチザンには現在、約60人が在籍。実際の攻撃に参加するのはこのうち10人ほどで、データ解析や攻撃に使用するツールの作成を担う人材もいる。メンバーにはベラルーシの国民だけでなく、他国の出身者も含まれる。ベラルーシ当局に摘発される恐れもあることから、その居場所は明らかにされていない。シェメトヴェッツ氏自身は同国国外にいる。

シェメトヴェッツ氏は「より複雑な攻撃を行うためには、多くの人員が必要だ」とし、今後、他国の人材をさらに集める考えを示した。支援者から暗号資産で寄付を受け、運営資金としているという。


同氏はロシアやベラルーシを念頭に「独裁政権は人々に暴力を振るい、恐怖を与える」とし、「サイバー技術を含む知識を駆使して反撃するしかない」と訴えた。同時に「サイバー攻撃がエスカレートする可能性は常にあるが、地上で起こる戦争ほど有害な結果を生み出していない」とも主張した。

産経新聞 2022/4/20 22:27 板東 和正
https://www.sankei.com/article/20220420-BKX25Q4CUBJRTEDAVLT7NU2LN4/