望まない転勤を廃止します――。「AIG損害保険」などを傘下に置く外資系保険大手のAIGジャパン・ホールディングス(東京都港区)は、新たな転勤制度を打ち出し、2年半の移行期間を経て、2021年秋に本格稼働させた。全国に支店があり、「社命による転居を伴う転勤が当たり前」の常識を覆す働き方改革。目指すのは「仕事と、仕事以外の大切なことを当たり前に両立できる組織文化」だという。どのように実現し、何をもたらしたのだろうか。【山田奈緒】

 新制度は、社員が全国転勤可能な「モバイル社員」か、希望エリアで働き続けたい「ノンモバイル社員」かを選ぶ。どちらの社員も希望するエリアと都道府県を会社に伝える。

 会社は全国を11エリアに分けて人材配置を設計。ノンモバイル社員の希望を優先して配置し、モバイル社員もできる限り希望に沿うよう調整する。

 19年4月から新制度に沿って配置を実施。21年9月末までを移行期間と位置づけ、その間にノンモバイル社員全員を希望エリアに配置し終えた。21年10月以降、希望する都道府県外に住む社員にのみ家賃補助(会社負担最大95%)が支払われ、希望エリア外で勤務するモバイル社員には、単身赴任でも家族帯同でも月額15万円の「モビリティー手当」も支払われる。

 対象は営業職などホールディングス全体で5000人弱。モバイルかノンモバイルかは変更できる。現状、「子育てが一段落した」「さまざまな地域で働いてみたい」などの理由でモバイルは対象社員のうち35%となっている。

 ノンモバイル社員は「介護が必要な親の近くに住みたい」「今の勤務地が気に入っている」などの理由で65%を占める。年齢層による大きな違いはなく、性別でみると女性の約9割がノンモバイルを選んだ。

 従来、転居を伴う異動かどうかは会社の方針で決まり、相談ベースの面談はあっても仕組みとしての異動希望や家庭事情の調査はなかった。本人が望む地域で働き、望まない転勤を廃止する新制度は、そこからの大転換といえる。

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毎日新聞 2022/9/19 18:00(最終更新 9/19 19:20)
https://mainichi.jp/articles/20220917/k00/00m/040/192000c