Innovative Tech
2022年10月25日 08時00分 公開
[山下裕毅,ITmedia]


Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。


 札幌市立大学、明治大学が中心となって進めてきた研究プロジェクトチームが発表した論文「Game Order: レトロビデオゲームにおけるワープ現象の外在化」は、8bitアーキテクチャを用いたビデオゲーム(以下、レトロゲーム)内の表現を現実世界の物理装置(ディスプレイ群)によって再構築した研究報告だ。


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Game Orderの外観


 レトロゲームは、機器の処理能力と記憶領域が限られているため、ゲームの世界観をプレイヤーに幅広く提供するには作者の創意工夫が必要になる。例えば、任天堂のゲーム「マリオブラザーズ」は画面の左右の端がつながっており、キャラクターは画面の一方の端に向かって移動すると端を通り抜け他方の端から登場する。

 一見不可解だが、プレイヤーはそのことに違和感を抱かずプレイすることができている。マリオの土管といえば、土管に入るとシーンが地上ステージから地下ステージに移り、地下ステージを進んで先にある土管に入ると地上ステージに戻る、「土管ワープ」システムである。

 このような表現を、研究者らは「(空間の)非現実的レトロ表現」と呼んでおり、この非現実的レトロ表現を現実世界の物理装置によって再構築し可視化したのがこの研究の提案となる。

 今回は、この土管ワープの仕組みについて研究チームが行った理論的考察を基に、藤木教授(札幌市立大学デザイン学部)が制作したメディア芸術作品の展示もあった。この作品は、複数のディスプレイと移動するディスプレイを用いたロボットシステムで再構築を行ったものである。

 具体的には、操作対象のキャラクターが出入りする土管の仕組みをロボットシステムで表現する。この一連の流れには、地下ステージでキャラクターが移動した距離と、地上ステージにおけるキャラクターが出入りした土管間との距離が一致しない問題が起きている。大半のプレイヤーはその違和感を覚えずプレイしているだろう。



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地上ステージと地下ステージでは、土管間の距離において不一致が起きている

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