「公立保育園」増やす?減らす? 都内では18年間で約200園減も、子育て支援拠点の意義は薄れず

 公立保育園の存続か廃止かを巡る議論が活発になっている。東京都小金井市では議会の同意を得ない専決処分で廃止を決めた市長が辞職に追い込まれた。27日投開票の同市長選は公立園の役割や保育行政のあり方について、改めて考える機会となりそうだ。(奥野斐)
◆保育園問題で辞職…27日小金井市長選
 「通っている子どものことを考えていない。納得する説明がないまま、決まった」。小金井市で廃園予定の公立園に子どもを預ける母親は憤る。市は市立5園のうち、2園で来年度からゼロ歳児の受け入れをやめ、2027年度末に廃止する。定員や保育士を年ごとに減らすため、園内は徐々に寂しくなりそうだ。
 西岡真一郎前市長は廃園に向け、市立保育園条例を市議会の議決を経ずに専決処分で改正した。この強引とも言える手法は議会が認めず、辞職に追い込まれた。ただ、改正された条例はそのまま。2園のゼロ歳児の募集停止は実施されている。こうした現状への対応が問われる市長選となる。
 同市は将来的には他の1園も廃止し、計3園をなくす方針。いまの公設公営では老朽化による建て替えや運営の経費が市の全額負担となることや、待機児童減による定員割れなどを理由に挙げている。
◆政府は「三位一体の改革」で民間参入促す
 公立園は、都内全体でも廃止が進む傾向だ。都によると、認可保育園は今年4月時点で3569園と、04年の約2.2倍に増加。一方、公立園は1010園(04年)から807園(22年)へと減った。運営も自前で行う「公設公営」園はさらに少ない。
 背景には、国が保育事業への民間参入を促してきた経緯がある。00年に株式会社などの参入を認め、04年度には「三位一体の改革」の一環で国が区市町村への補助制度を変更。区市町村が負担する公立園の運営費は4分の1から全額に引き上げられた一方、私立園の区市町村負担は4分の1のまま据え置かれた。
 私立園の方が柔軟に運営できるとの指摘もある。17年までに公立4園全てを私立園にした東京都羽村市の担当者は「延長保育や休日保育など多様なニーズに民間の方が柔軟に対応できる」と説明。公立園がゼロでも「総合的に保育サービスを提供しているので不都合はない」と話す。
◆世田谷区は民営化ストップ「セーフティーネット」
 半面、公立園を残そうとする自治体もある。世田谷区は公立園の民営化をストップしつつ、34年度までに現在の公立46園を統廃合して39園にする。担当者は「公立園はセーフティーネットの役割があり、就業していない親の相談、支援の拠点でもある」と意義を述べた。
 小金井市は2園の先行廃止で、10年で27億円をコスト削減できると主張。ただ、廃園後に子どもが私立園に移った際の市負担分11億円を計上しておらず、削減幅の算定方法に疑問の声が上がっている。
◆識者「民間の撤退に備えて残しておくべき」
 保育政策に詳しい明星大の垣内国光名誉教授の話 小金井市はもともと公立園の割合が低いが、少ない公立園で子ども本位の保育を実践してきた。定員調整は公立園をなくす理由にはならず、むしろ民間の撤退に備えて残しておくべきだ。公立園は質の高い保育の実践・共有を通じて地域の保育水準を引き上げ、災害時の対応を率先して行うなど拠点の役割がある。人件費が低い民間事業者ばかりになるとすれば、保育士全体の処遇改善にも悪影響が及ぶ懸念もある。

東京新聞 2022年11月2日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/211478