これでは「定額働かせ放題」? 一人裁判を始めた教諭に法律の壁
 長時間労働の是正について、はっきりと管理職に求めたのはこれが初めてだった。埼玉県内の公立小学校教諭、田中まさおさん(仮名、63歳)は2018年4月、新年度の活動計画を話し合う職員会議で、校長にこう切り出した。「朝の登校指導を命じるならば、その分、早く帰宅できるようになりませんか」

減らない業務
 登校指導とは、教員が通学路に立ち、学校に向かう子どもたちに声をかけたり誘導したりする取り組みだ。安全な登校のため、田中さんの学校では月1回程度実施。教員はこの日になると、始業時間の午前8時半より約1時間早く出勤していた。
(略)
 管理職の指示による業務が長時間労働につながっているのに、なぜ残業代が支給されないのか――。田中さんは18年9月、残業代の支払いを県に求める裁判を起こした。

時間外労働は「自主的」か
 公立学校の教員には残業代の支払いが認められていない。給与体系を定めた教職員給与特別措置法(給特法)の規定があるからだ。給特法は、教員に時間外労働(残業)を命じられる業務について、実習▽職員会議▽学校行事▽災害対応――の4種類に限定し、月給の4%を「教職調整額」として一律に支給する代わりに、残業代の支払いは認めていない。こうした規定は、教員の仕事は「自主的な部分」と「指揮命令に基づく部分」が一体となり、区別が極めて難しいとの考え方に基づく。

 21年10月のさいたま地裁判決は「給特法は教職調整額のほかに時間外賃金(残業代)の発生を予定していない」などとして田中さんの訴えを退けた。22年8月の東京高裁判決も田中さんの控訴を棄却した。

 一方で判決は1、2審とも、田中さんの主張の一部を認めている。田中さんがこなしていた約60種類の業務の半分程度については労働時間に当たり、「指揮命令に基づく業務」に相当すると認めたのだ。

 教室の掲示物の作成に業者テストの採点、通知表の作成、校外学習の準備……。田中さんが声を上げた登校指導につい…(以下有料版で, 残り1566文字)

毎日新聞 2022/12/3 07:00(最終更新 12/3 07:00) 有料記事 2769文字
https://mainichi.jp/articles/20221202/k00/00m/040/010000c