裁量労働制の対象拡大を決定、働き過ぎ社員の除外義務付けは見送り…必要なのは縮小論議と識者

 厚生労働相の諮問機関の労働政策審議会分科会は27日、実際の労働時間にかかわらず一定の時間働いたとみなす「裁量労働制」の対象を拡大する報告書を決定した。銀行や証券会社で企業の合併・買収(M&A)の助言に携わる社員を加える。同制度は働きすぎ助長の懸念があるとして労働側は実効性のある健康確保措置の導入を求めてきたが義務付けは見送られた。 (池尾伸一)
◆政府が今後、省令改正などの手続きへ
 裁量労働制は1988年の導入時、デザイナーなど5つの「専門業務型」に限定されていたが、その後3回にわたり職種が追加され現在は19種。2000年には経営戦略立案に携わる人も「企画業務型」として対象になっている。今回のM&Aの助言業務は経団連が強く適用を要望した。
 企画業務型については、経営側が求めた法人営業や生産ラインの改善業務などへの拡大は、労働側の反対が強く報告書への明記は見送った。ただ、経営側は「現行(制度)でも可能になる業務はある」(経団連)と主張しており、拡大論議が再燃する可能性もある
 健康確保措置については、過重労働になった人を制度適用から外す措置や、就業から始業まで一定の時間を確保する「勤務間インターバル」の義務付けは見送りになった。選択肢のリストに入れることにとどまる。
 従来は企画型のみ必須だった本人同意は専門型でも義務化する。
 裁量労働制を巡っては、18年に当時の安倍晋三首相が企画業務型を法人営業にも広げる法改正を目指したが、不適切なデータに基づく答弁をし、断念に追い込まれた経緯がある。
 労働問題に詳しい上西充子法政大教授は「裁量労働制が乱用されている実態を考えれば本来は対象を縮小する議論があってしかるべきだ。過重労働の人を外すなど最低限のルールの義務付けも必要で、国会での議論が不可欠だ」と話す。
 国は報告書に基づき、来年以降に省令改正などの手続きを進める。
 
裁量労働制 あらかじめ1日7時間など「みなし労働時間」を決め、実労働が13時間でも5時間でも賃金は原則、みなし労働時間分に固定される制度。会社が長時間残業を命じながら「みなし労働時間分」しか払わないなど乱用されるケースもある。厚生労働省調査(2019年実施)では、いわゆる「過労死ライン」まで働いている労働者が8.4%と、裁量制でない人の1.8倍。適用対象者(推計)は50万人前後。

東京新聞 2022年12月27日 21時19分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/222415