今春に行われる大阪府知事・大阪市長のダブル選は、いつもと様相が異なる。大阪を二分してきたテーマ「大阪都構想」の是非が争点にならない見込みだ。代わりの争点にカジノ誘致が浮上しているが、論点とすることには異論もある。都構想に「イエス」か「ノー」かで色分けされてきた選挙構図が混沌(こんとん)としている。

過去3回は維新対非維新が激突
 大阪市を廃止して東京23区のような特別区を置く都構想は、過去3回のダブル選で最大の争点だった。推進を掲げる大阪維新の会に対し、反対する自民党や共産党などの非維新勢力が協力して対抗馬を支援。両陣営が激しく争った。
 最初は2011年。前年に維新を結成した橋下徹知事(当時)が市長選にくら替え出馬し、1971年以来40年ぶりのダブル選になった。これを維新が制し、知事と市長の座を握った。
 続く15年の選挙は、その半年前の住民投票で否決された都構想の「再挑戦」を維新が公約に掲げた。非維新はこれに反発したが、再び維新が勝った。
 19年の前回選では、過去2回自主投票だった公明党が非維新に加わった。2度目の住民投票を目指す維新と激突したものの、維新の勝利に終わった。

大義失い、揺らぐ非維新の結束
 しかし、20年にあった2度目の住民投票で都構想は否決され、論争に終止符が打たれた。知事選に再選出馬する吉村洋文知事(維新代表)は「僕がやることはない」と都構想への再挑戦を否定。維新の次期市長選候補、横山英幸府議も「(都構想の制度案を決める)法定協議会の設置は掲げない」と今回は争点にしない考えだ。

 最大の争点を失うことは、維新・非維新の双方に大きな影響をもたらす。

 「一丁目一番地」の看板政策を失った維新は、党が結束できるのか不安が渦巻く。ダブル選は3連勝中とはいえ、ある議員は「大きな目標を失い、戦いづらさはある」と漏らす。

 非維新の結束も揺らぐ。都構想反対は共闘の大義になってきたからだ。今回は共闘の協議が進んでおらず、候補者も決まっていない。市議の一人は「維新と相対するには、(否決に追い込んだ)住民投票時のように他党が一致団結する必要がある」と強調する。

国の審査未了ならIRが争点に?
 そこで争点に挙がるのが、カジノを含む統合型リゾート(IR)。大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)に開業する計画で、府市が誘致を目指している。現在、国が計画を審査しているが、夢洲では液状化や地盤沈下の恐れが指摘され、ギャンブル依存症の問題も懸念される。
 争点に急浮上した背景には、国の計画認定の「遅れ」がある。府市は22年中の認定を想定していたが、審査は越年した。このままダブル選を迎えれば、選挙結果次第で認定に待ったをかけられるとアピールできる。共産党がダブル選に向け早々にカジノ反対を掲げたのに対し、日本維新の会の馬場伸幸代表が1月中の認定を示唆するなど各党が決定時期を注視している。共産の柳利昭府委員長は「認定されても誘致の見直しを求めていく」と話す。
 一方、非維新の中心になってきた自民は立ち位置を決めかねている。内部では、誘致に賛成の府議団と反対の市議団で態度が割れている。政権与党としてIRを推進してきただけに、選挙で大手を振って反対できない事情も抱える。さらに認定後に誘致を中止した場合、IR運営事業者から巨額の賠償金を請求され、首長個人が責任を問われる事態にもなりかねない。自民府連関係者は「IRに真っ向から反対するのは現実的ではない」と話す。

維新・松井氏「既に民意は得た」
 こうしたなかで、誘致の賛否を問う住民投票がにわかに注目を集めている。市民団体が19万筆超の署名を集めて住民投票条例案が府議会に提出されたが、維新などの反対で22年7月に否決された経緯がある。自民は住民投票には前向きで、府連幹部は「住民投票の是非を争点として訴える手はある」と示唆した。
 こうした動きに維新前代表の松井一郎氏(大阪市長)は「IR誘致は過去の選挙でも争点になり、既に民意を得ている」とけん制し、「維新は改革の継続と発展を訴えていく」と語った。【松本紫帆、野田樹】

毎日新聞 2023/1/1 11:00(最終更新 1/1 15:31) 有料記事 1693文字
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