「保育士1人で子ども30人」はいつまで…約束の「0.3兆円」が10年手つかずで進まない配置基準の見直し

 岸田文雄首相が打ち出した異次元の少子化対策では、「幼児教育・保育サービスの強化・拡充」が柱の一つに位置づけられている。保育を充実させるには、人員を増やすための保育士の配置基準の見直しは不可欠だが、長く手付かずのまま。質の向上のための財源を確保するとした「約束」も守られていない。子どもたちの安全確保にもかかわる保育の質の向上は、待ったなしの課題だ。(坂田奈央)
◆75年間変わらないまま
 保育士の配置基準は2015年に「子ども・子育て支援新制度」が始まる際、1歳児で「6人に1人」から「5人に1人」、4?5歳児で「30人に1人」から「25人に1人」に改善するとしていた。だが、今も宙に浮いたままだ。
 日本の保育士の配置基準は、4?5歳児で他国に比べて大幅に緩い。保育士1人あたりの子ども数は、英国の13人やニュージーランドの10人(19年の厚生労働省調査)などと比べて多く、負担が大きくなっている。これまで、ゼロから3歳児では配置を手厚くする見直しがあったが、4?5歳児の配置基準は1948年以降、75年間変わっていない。
 見直しが進まない一因として、財源が挙げられる。
 12年に民主、自民、公明の3党が消費税率10%への引き上げを決めた際、新制度に必要な追加財源約1兆円のうち、約7000億円を増税分から確保すると決めた。この約7000億円は保育所の増設など「量」の拡充に充てられ、配置基準見直しなど「質」のための残り約3000億円分は、他の財源から捻出するとした。だが、自民党政権下で放置されている。
◆人員不足が事故や虐待の要因に
 この問題は「0.3兆円メニュー」と言われ、関係者や与野党は、財源を確保して対応するよう求め続けてきた。保育現場の過重な負担や、他業種に比べて低い賃金水準は、人手不足による保育の質の低下につながり、子どもの安全にかかわる問題となっている。
 保育士らの労働相談を受けている介護・保育ユニオンの三浦かおり共同代表は「保育現場は常に人員不足で、通園バス置き去り事故などの事故や虐待の要因になっていると感じる。保育士が余裕を持って子どもに対応するのに十分な人員体制を整えることが必要だ」と訴える。
 自民党の閣僚経験者は「『異次元』と言うなら、その前に決めた『0.3兆円メニュー』ぐらいはすぐやるべきだ。少子化対策はここ10年が勝負で、できることから何でもやらなくてはいけない」と語る。だが、小倉将信子ども政策担当相は個別の施策についての具体的な言及を避けている。

東京新聞 2023年2月21日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/232288