2023年02月20日 20時00分

イギリスの国民保健サービス(NHS)が2023年2月15日に、同国で初となる異染性白質ジストロフィー(MLD)の遺伝子治療が生後19カ月の赤ちゃんに行われたと発表しました。細胞を取り出し、欠陥のある遺伝子を組換えてから戻すこの治療は無事に成功し、赤ちゃんは元気に退院したと伝えられています。

異染性白質ジストロフィー(MLD)は、脳神経で絶縁体のような役割を担う脂質であるスルファチドを分解する遺伝子に欠陥があることを原因とする遺伝子疾患です。これによりスルファチドが脳に蓄積すると神経細胞が破壊され、認知障害やまひ、失明などの症状が現れ最終的に死に至ります。伝えられるところによると、生まれてからすぐにMLDの症状が始まった場合の平均余命は5〜8年とのこと。

これまでMLDには治療法がありませんでしたが、EUは2020年に「Libmeldy(一般名:Atidarsagene autotemcel)」という遺伝子治療を承認しました。この治療では、患者から幹細胞を取り出してから、レンチウイルスベクターで欠陥のある遺伝子を正常なものに組換え、再度患者に注入します。

イギリス在住のアリー・ショウさんの娘である3歳のナラちゃんと生後19カ月のテディちゃんは、2022年4月にMLDと診断されました。そして、遺伝子治療の実施が決まったテディちゃんは6月末に骨髄や血液から幹細胞が採取され、8月に処理済みの細胞の移植が行われました。それから2カ月の10月に、テディちゃんは自宅へと無事に退院したとのことです。

NHSは発表の中で、「治療後のテディは幸せで健康な幼児で、生まれつきの悲惨な病気の兆候は全く見られません」と述べています。

Libmeldyの薬価は280万ポンド(約4億5000万円)で、これまでEUで承認されたものとしては最高額とのこと。当初、価格を理由にNHSはLibmeldyの承認を拒否しましたが、製造元であるOrchard Therapeuticsが大幅に価格を割り引いて提供すると申し出ました。また、Libmeldyは一度治療を施せば生涯にわたって効果が発揮すると期待されていますが、まだ新しい技術であるため具体的な結果が出るのはこれからです。

さらに、症状が進行する前に実施しなければならないため、残念ながら姉のナラちゃんは治療の対象外となりました。

ふたりの母親であるショウさんは「2022年4月に娘がふたりともMLDと診断された時、私たちの世界はひっくり返りました。しかも、ナラは治療の対象ではないので、このまま機能が衰えて若くして死ぬと告げられたことは一番心が痛むことであり、受け入れがたいことでした」と話しました。

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テディちゃん(左)とナラちゃん(右)

ショウさんはさらに続けて、「しかし、苦しみの中にテディへの希望がありました。私たちは、テディがイギリスでこの治療を受けた最初の子どもであることを非常に光栄に思っています。そして、この子が長生きできて、うまくいけば普通の人生を送れる機会を得られたことにも感謝しています。この治療法がなければ、私たちは子どもを2人ともなくしてしまっていたことでしょう」と話しました。

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(全文はソースをご確認ください)
https://gigazine.net/news/20230220-baby-receives-gene-therapy-first-uk/