2023年3月8日 06時00分

 ジェンダーを巡る問題への関心が高まる一方、困難にある女性や支援者への不当な攻撃や差別は根強く残る。家庭内暴力(DV)の被害を訴える女性が子連れで逃げることを「連れ去り」「虚偽DV」などの過激な言葉で表現する風潮や、女性支援団体へのバッシングもその一つだ。これらは当事者など女性たちだけで対応する課題ではなく、男性を含む全ての政治家が向き合わなければならない人権問題だと考える男性議員に聞いた。(大野暢子)

◆「弱者を攻撃したい狙いが透けて見える」 維新・足立康史氏

 行き場をなくした若年女性を支援している一般社団法人「コラボ」(東京都)に昨年、都からの委託費を不正使用しているという疑惑が持ち上がった。住民監査請求を受けて都が公表した監査結果によると、経費報告に不適切な点があり改善を求めるという。公金が使われている以上、厳正に対処するのは当然だ。

 一般社団法人「コラボ」 繁華街での巡回や相談、居場所の提供を通じ、虐待や性被害に遭った10~20代の女性らを支援する団体。東京都の「若年被害女性等支援事業」を受託している。昨年、都内の男性が委託料の不正受給が疑われるとして都に住民監査請求した。請求を機にネット上でのデマ・中傷、支援現場の無断撮影やスタッフへの罵倒など嫌がらせが相次いでいる。都は3日、返還請求しないと結論づけた。

 違和感を抱くのは、公金使用の適正化を求めるという本来の目的を超えた攻撃や活動の妨害が起き、コラボと近い活動をする団体にも影響が及んでいる点だ。

 例えば、政治活動は国民の権利なのに、コラボ代表が過去に野党を支援したことを非難する人がいる。彼女らが政府の有識者会議に参加したことを「国との癒着」「利益相反」と断じる人もいる。こうした人は、自民党と密接な関係を持ち、政策決定に影響力を持つ企業や団体のことは、なぜ問題視しないのだろうか。

 コラボなどの団体は、最初から政治や行政に影響力を持っていたわけではない。政治・行政側が、団体から若年女性の過酷な実態を聞き、支援が必要だと判断したという順序が正確だ。

 一連の騒動からは、気に入らない主張をする弱者を攻撃したいという狙いが透けて見える。自由な言論は保障されるべきだが、罪のない人への攻撃で福祉や女性政策が後退するのは看過できない。政治家には議論をまっとうなものに戻し、弱い人を守る責任がある。

◆「女性に従属や忍耐を強いるのは伝統の曲解」 自民・大岡敏孝氏

 DVの背景には、夫婦関係の圧倒的な非対称性がある。特に私たち男性の体格・体力は女性を上回る。言葉や動作で威圧される側が抱く恐怖は、男性からは想像できないほど大きい。

 社会構造として、女性は男性より経済力や社会的地位が低いことが多く、育児で身動きが取れないこともある。地方議員時代に被害者側の相談を受けた経験から、外部への相談や避難のハードルは、女性側が圧倒的に高いことを痛感した。

 離婚後も父母がともに子の親権を持つ「共同親権」の導入が議論されているが、私は反対だ。一見、改革的で良さそうに思えるが、メリットがあるのは父母の関係が良好な場合に限られる。DV・虐待があるケースでは、離婚後も加害や支配が続くおそれがあり、自殺を考えるほど追い詰められる人も出るだろう。特定層のメリットの最大化より、リスクの最小化を重視した法整備をするべきだ。

 離婚後の共同親権 現行民法は、婚姻中は父母が親権を持つ「共同親権」で、離婚後は一方のみが持つ「単独親権」を規定する。2011年、国会の付帯決議に検討が盛り込まれたことを機に、法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会が導入の是非を議論している。別居親が養育に関わりやすくなるとされる一方、子の重要事項を同居親だけで決められなくなり、子の不利益になるとの指摘もある。

 推進派の中には「伝統的な家族観」を取り違えている人もいる。女性が家から勝手に逃げることを嫌悪しているのだろうが、家族を安心させるという役割を果たせていない男性が、女性に従属や忍耐を強いるのは伝統の曲解だ。

 男性を家のあるじとする価値観は、男性のことも追い詰めてきた。一家を一人で養うべきだというプレッシャーは暴力性と結び付きやすい面もある。こうした価値観は既に時代遅れだ。

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