テロ対策に不備がある東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)への運転禁止命令が、さらに長期化する見通しになった。原子力規制委員会の命令から2年が近づいても改善が見えず、東電の能力不足は深刻だ。それでも再稼働に向けた準備を進める東電に対し、地元自治体からは根強い不信の声が上がる。
◆規制委「解決はかなり難しい」
 「テロ対策についての能力不足は確かにある」。8日、規制委の山中伸介委員長は記者会見で、改善が進まない東電の取り組みに不満を述べた。
 この日の定例会合で報告された課題には、対策の根本となる侵入検知器の不具合があった。問題を受けて新たに更新した検知器で、防護本部に侵入を知らせる信号が送れないケースがあった。

 激しい風雪を侵入者と誤る誤警報も、東電は2018年度比で10分の1に低減させる目標を設定しているが、達成できていない。検知器の調整が不十分という。山中委員長は会見で、これらの設備面の課題について「解決するのはかなり難しい」と改善には長期間かかるとの認識を示した。
 組織内での情報共有など運用面の課題も改善しきれず、命令解除の見通しは立たない。
◆東電、10月の再稼働を想定
 政府は、夏から冬以降に柏崎刈羽を再稼働させる目標を設定。東電も1月、7号機を今年10月から再稼働させる想定で電気料金の値上げ幅を発表した。1~2月に発電所の現状を伝える県民説明会を計5会場で2年ぶりに開催し、再稼働を考慮しないと、電気料金の値上げ幅がさらに大きくなるなどと説明した。
 さらに2月22日、7号機の原子炉内に、模擬燃料を入れるなど設備の動作テストを始めると発表。模擬燃料とはいえ、運転禁止命令中のテストに対し、記者会見で妥当性を問われた稲垣武之所長は「(準備に)ある程度のリードタイム(余裕)は必要」と主張し、再稼働を想定した動きを鮮明にしている。
◆地元に不信感「東電じゃない方がいい」
 前のめりになる東電に対し、立地自治体の新潟県は冷ややかだ。
 「東京電力に原発を運転する能力が本当にあるのか、疑問だ」。2月24日の県議会本会議で、花角英世知事は言い切った。
 テロ対策の不備が発覚した後も、経年劣化した配管に穴が開いたり、3号機の老朽化対策の審査に2号機のデータを流用するなど、トラブルや不祥事が止まらない東電に対し、不信感は根強い。
 再稼働には立地自治体の同意が必要だが、その手続きも一筋縄にはいかない。県は再稼働の議論を始める前提として、福島第一原発事故の検証がまとまることを条件にするが、検証作業が終わる見通しはない。花角知事は同意手続きの前に「県民の信を問う」と明言。手法は明らかにしていないが、県民の支持が得られるかは見通せない。
 先行きが見えない中、原発推進側の自民県議からもこんな声が漏れる。「柏崎刈羽を運転するのは、東電じゃないほうがいい」(小野沢健太)

東京新聞 2023年3月9日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235416