ゴームリー(Tara Ghormley)は頑張り屋さんだ。高校時代の成績はクラスで一番,大学の学部を最優等で終え,獣医学の専門課程でも優等生だった。厳格な訓練をこなして獣医内科の専門医として立派なキャリアを築いてきた。だが2020年3月,新型コロナウイルスSARS-CoV-2に感染した。パンデミック宣言から間もなく,当時住んでいたカリフォルニア州中部の海沿いの小さな町の近くでもアウトブレイクが発生し,町で24番目の感染者となった。「感染で一番にならなかったのは,まあよかったと思う」という。

体内からウイルスがほぼ消えてから3年近くたったいまも,ゴームリーは体調不良に苦しんでいる。すぐに疲れ,心拍が急に速まり,集中できず頭がぼんやりする時期がたびたび繰り返す。ほぼ毎日を暗い室内で休んで過ごすか,多くの医師の診察を受けに行く。

パンデミック初期に感染して現在も不調が続いている彼女は,いわゆる「ロングCOVID」の症状を呈した国内で最初の人々のひとりだ。この後遺症は感染から3カ月以上,ときには何年も体調不良が続く。専門家の間では「新型コロナウイルス急性感染後後遺症(PASC)」と呼ばれている。

症状には痛みや極度の疲労,集中や物事の想起が難しい「ブレインフォグ」などがある。米国では2022年2月時点で約1600万人の成人が後遺症を患い,200万?400万人が仕事ができない状態だったと推定され,その多くはまだ職場復帰を果たしていない。その他の点では健康な若者に後遺症が生じることがしばしばで,コロナ感染が軽くても起こりうる。COVIDで入院した人や高齢者(高齢者は入院する例が多い)は,後遺症のリスクが少し高くなるようだ。喫煙者や肥満者,その他の健康問題(特に自己免疫疾患)を抱えている人に加え,社会経済的に不利な立場にある女性も後遺症のリスクが高い。ワクチン接種はリスクを下げるようだが,完全には防げない。

一般的な長期症状のほとんどは神経的なものだ。多くの人が,記憶力や注意力の低下,睡眠障害,気分障害などの形で認知的な機能不全を経験している。他方では,脳よりも体に原因があるように思える症状もある。疼痛や,軽い運動をしただけでへとへとになる労作後倦怠感(PEM)などだ。だが,これらも神経の機能不全に由来しており,自律神経系の不調によることが多い。

続きは2023年5月号の誌面をどうぞ。

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