ハンバーガー110円が1年で170円…黒田緩和10年で「円」の価値は目減りした 円安政策は曲がり角

 退任する日銀の黒田東彦総裁が主導した大規模金融緩和の10年間で、大きく下がったのが円の価値だ。昨年後半には金融引き締めを急ぐ米国との政策の違いを背景に、1ドル=150円台の歴史的な円安が進行。輸入物価の上昇に拍車をかけ、「悪い円安」論が高まった。新体制となる日銀は緩和を当面続ける方針だが、経済の成長力強化につながらなかった円安政策は曲がり角を迎えている。
◆半世紀前と同水準になっている「円の購買力」
 昨年3月まで110円だったマクドナルドのハンバーガーが3度の値上げを経て今年1月以降は170円に。かつて「デフレの象徴」とも言われたハンバーガーが度重なる値上げを迫られているのは、牛肉や小麦など原材料費の高騰に加え、海外からの仕入れに響く円安が要因だ。
 日本に初出店した1971年は80円だった同社のハンバーガーは、2002年には過去最安の59円まで価格が低下。しかし、今やその3倍近い金額となっている。それでも同社担当者は「まだかなりの円安水準にある。(商品の)値上げでコスト上昇分を全て吸収できているわけではない」と話す。

 円安は長らく「日本経済にプラス」と考えられ、黒田氏も同様の発言をしてきた。輸出企業の業績を伸ばして雇用や設備投資につながり、株価も底上げされる面があるからだ。12年に始動した第2次安倍政権も円高是正に乗り出し、大規模緩和を柱としたアベノミクスを実行。政権発足前に1ドル=80円台だった円相場を円安に導いた。
 しかし、世界的な資源高の中で昨年から目立つのが円安のマイナス面だ。輸入価格が上がることで企業のコスト負担は増え、商品への価格転嫁は賃金が上がらない家計を圧迫した。企業の海外移転が進み、円安による輸出メリットもかつてより薄れている。
 円の総合的な実力も落ちた。2国間の為替相場と異なり、各国の物価変動や貿易量を加味して各通貨と比較した円の購買力を示す「実質実効為替レート」(20年=100)は直近で70台まで低下し、半世紀前と同水準だ。海外のモノやサービスが割高になったことを意味し、円安と長期の物価低迷を反映している。
 こうした円の凋落ちょうらくについて、一橋大の野口悠紀雄名誉教授は「企業の利益が自動的に増える円安を政府もメディアも歓迎してきたが、新たな技術やビジネスモデルの開発で生産性を上げて円高に対抗すべきだった」と指摘。円安政策に安易に頼り、産業の構造改革を怠ってきた結果が日本経済の衰退とみる。(近藤統義)

東京新聞 2023年4月8日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242815