https://news.yahoo.co.jp/articles/8327dc103ea6ac2e914a788a4ab63980ce3bc85b
■細菌をねらう薬でがんを治療できる可能性も、研究
 人体の中に生息している細菌のほとんどは、私たちの生命維持に役立っている。
だが最近の研究から、一部の細菌は腫瘍の中に入り込んで、その増殖や転移を助け、免疫系ががん細胞を破壊するのを困難にしていることがわかってきた。

2022年11月に学術誌「ネイチャー」に発表された研究により、口腔がんと大腸がんの中に生息している細菌は、人間の免疫反応を抑制し、
がん細胞がより速やかに広がるのを助けることによって、がんの進行を直接促していることが示された。
また、同じく2022年11月に学術誌「Cell Reports」に掲載された研究では、5-フルオロウラシルなどの一部の抗がん剤が有効なのは、
腫瘍が大きくなるのを助ける細菌も殺すためである可能性が示されている。
「私たちのデータは、腫瘍の中に生息する細菌が、単なる傍観者ではなく、腫瘍の中で生態系を作っていることを示しています」と、
両研究を主導した米フレッド・ハッチンソンがんセンターの微生物学者スーザン・ブルマン氏は言う。

米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの腫瘍外科医のジェニファー・ワーゴ氏によると、
腫瘍の中に細菌などの微生物がいる可能性を示した研究は過去にもあったが、懐疑的な見方をする人が多かったという。
氏は、腸内の「善玉」細菌が多かったり多様性に富んでいたりするメラノーマ(悪性黒色腫、皮膚がんの一種)患者ほど、
免疫療法によく反応することを発見し、2017年に学術誌「サイエンス」に論文を発表している。

「脳腫瘍の中にさえ微生物がいることがわかりました。どうやってたどり着いたのだろうという感じです」
口腔がんと大腸がんに関する今回の研究は、
「微生物が腫瘍内に存在しているだけでなく、がん細胞や免疫細胞の中にも存在しうることを、かなり決定的に示しています」とワーゴ氏は言う。

この研究は、細菌と腫瘍が共存し、協力してがんの進行を促しており、細菌がどこにいるかが重要な要素になることを示していると、
米ダナ・ファーバーがん研究所の腫瘍学者トニ・シュエイリ氏は指摘する。
氏は現在承認されている多くの泌尿器がんや腎臓がんの治療法の臨床試験を指揮してきた。
氏はまた、ブルマン氏の研究は、腫瘍の中に細菌がいることが決して偶然ではないことを科学者たちに納得させるものだと認めている。

今回の2つの研究は、特定のがんと闘って消滅させるためには、腫瘍とそこに生息する微生物との関係を理解することが不可欠であることを示唆している。

■がんの増殖を促す細菌、阻む細菌
細菌ががんの経過に何らかの影響を及ぼすのではないかと考えられるようになったのは意外に古く、19世紀後半のことだった。
ドイツの医師ウィルヘルム・ブッシュとフリードリッヒ・フェーライゼンが、がん患者が丹毒(レンサ球菌によって引き起こされる皮膚疾患)にかかると
腫瘍が縮小する場合があることを、それぞれ別に発見したのだ。
この現象を何十回も観察した米国の医師ウィリアム・コーリーは、骨肉腫の患者を治療するため、熱で殺した細菌を混ぜ合わせた「コーリーの毒」を開発したが、
致死的な感染症を引き起こすおそれがあったため、やがて使用されなくなった。

一方、がんを引き起こすとされる細菌もある。一部の科学者はピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が胃がんの原因になると考えていて、現在も論争が続いている。
さらに、フソバクテリウム・ヌクレアタムという口内細菌は、多くの消化器がんで頻繁に見られ、がんの経過の悪さや治療の失敗と関連づけられている。
また、研究により、腸内細菌のバランスの乱れが消化器がんを誘発する可能性も示唆されている。
逆に、患者の腸内に特定の細菌が存在していると、免疫療法が成功しやすくなることも明らかになっている。

これらの発見に続き、ブルマン氏はフソバクテリウム・ヌクレアタムなどの細菌が、最初にできた大腸のがん細胞だけでなく
転移した先のがん細胞にもいることを発見し、2017年に「サイエンス」に論文を発表している。

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