進まぬ男性育休、「1カ月」が成否分ける
効果アップのカギは取得率より期間
宇野 麻由子(日経ESG 記者)

男性育休の取得促進が多くの企業で課題になっている。「男性優遇」になりがちな従来のキャリア形成の見直しが必要だ。

 大企業で男性の育児休業取得状況の公表が2023年4月から義務付けられる中、取得率の低さに頭を抱える企業も少なくない。

 その課題をあぶり出し、効果的な対策につなげようと、パーソル総合研究所が「男性育休に関する定量調査」を実施した。企業調査の対象は、会社経営、会社役員、経営・経営企画、総務・人事の主任・係長相当以上800人。従業員調査の対象は、男性育休取得者500人、女性育休取得者500人、上司550人、同僚1600人。それぞれ23年1月17〜20日と1月20日〜2月6日にインターネットで定量的に調査した。調査を担当したパーソル総合研究所シンクタンク本部研究員の砂川和泉氏は「男女の育休を比較することで、男性育休ならではの課題を明らかにした」と説明する。

育休取得阻む「男性優遇」
 人事や経営層で課題とされているのは、「取得事例が乏しい」「取得希望者が少ない」といった点が目立つ。加えて、周囲のメンバーの理解不足が問題視されている。普及過程での問題点と言えるだろう。

 一方、上司では「他のメンバーへの負荷増大」や「仕事の分担の仕方」「代替要員の確保」と、育休取得者の不在時のマネジメントに関する懸念が大きくなっている。既に普及している女性育休ではこうした課題意識は少ない。

 これについて「統計分析で潜在的な要因を見てみると、本人が感じる中長期の育休の取りにくさに一番大きく影響するのは “男性が優遇される職場”であることだった。重要な仕事には男性が選ばれることが多く、男性の方が昇進・昇格への道が開けている。重要な仕事を持っているからこそ、カバーの負担も大きいと考えられる」と砂川氏は話す。
中長期育休で組織貢献アップ
 では、企業は男性育休によるメリットをどのように考えているのか。「女性活躍推進」や「従業員のモチベーション向上」「企業イメージの向上」「優秀な人材の定着/確保」などを挙げる企業が多かった。

 ここで注意が必要なのは、取得率との関係だ。取得率5%になるまでは、取得率が上がるほど効果を感じる割合が上がるが、それ以降は横ばいになる。取得率が5〜80%の企業では、1カ月以上といった中長期での取得者がいると効果を感じる割合が高まるという結果になった。

 加えて、中長期での取得者がいる企業では、「従業員の自主的な行動促進」や「業務の見直しや属人化解消」「従業員の視野拡大」といった効果を感じる割合が高いという特徴が見られた。


 「育休中の生活環境構築や職場とのコミュニケーション、自己学習、復職後の両立体制検討といった経験が、対人力やタスク力を向上させる。それが仕事の成果や周囲支援、職場改善提案といった組織貢献につながることが、分析から分かった」(砂川氏)。2週間未満など短期の育休は経験が乏しく、効果を実感しにくい。

「お互いさま」は通用しない
 男性育休の促進にはどのような対策が効果的なのだろうか。取得率が5%未満の初期段階では、男性育休に関する全社方針の発信や対象者への取得勧奨が有効とみられる。

 中長期の育休取得を促すには、まず不在時のマネジメントの見直しが必要だ。「ライフコースが多様化しており、 “長期で休む人に対してお互いさまと思えない”という人は男女の同僚いずれも20%超だった。そのため、育成視点での仕事のアサインや、カバーしたことの評価・処遇への反映が重要となる」(砂川氏)。中長期の育休に肯定的な上司は、こうした点に配慮しているようだ。

 さらに一歩進めるには、「制約なく働ける人だけがキャリアコースに残り、結果的に男性が優遇される」といった従来のキャリア形成の在り方を見直す必要がある。ポイントは2つある。ライフイベント前の早期育成・早期選抜、限定的な働き方とキャリア形成の両立が鍵となる。

 こうした施策は、まさに女性活躍推進にもつながる。男性育休の促進が女性活躍の行き詰まりを打破する。そんな効果も期待できそうだ。

日経BP 2023.08.09
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00005/080200379/