近年、「撮り鉄」のイメージが悪化しつつある。
 理想の1枚を撮ることを目指す撮り鉄たちだが、動画が手軽にSNSで拡散される時代になって
「その1枚を撮るまでの過程」が周囲から記録・論評されるようになり、場所取り競争が過熱し怒号が飛ぶ様子や迷惑行為などが人目に触れやすくなったからかもしれない。
 しかし、そういった世間のイメージとは一線を画す鉄道写真撮影者たちがいる。登山者に交じって見晴らしのいい山の頂上などを目指し、望遠レンズで列車を俯瞰撮影する人々だ。

私が「撮り鉄登山者」(=「登り鉄」と勝手に命名したい)の存在を意識するようになったのは今年の冬~春
高山本線で長年活躍したキハ85系車両の引退が迫っていた時期のこと。
撮り鉄が長年開拓した撮影地を参考にして、Googleストリートビューなどを駆使して画角を選び、車で巡った。

しかし、SNSで発表されている写真群を眺めていると、明らかに道路の存在しない高所から撮影している人々がいた。
雲の切れ目を縫うように走る列車は幻想的で、「もはや撮り鉄というより風景写真や登山が趣味なのでは」と人物像を推察した。
 来年3月16日に開業する北陸新幹線金沢―敦賀間でJR西日本の営業用車両「W7系」による走行試験が始まった福井県で、「登り鉄」を探してみることにした。

登山者用アプリなどを使い、選んだ撮影地は福井市・鯖江市境にそびえる文殊山(標高365メートル)。
アプリに投稿された眺望写真をみると、福井市中心部からS字を描いて敦賀を目指す新幹線の線路の構図は見事だった。
頂上からの眺望はもちろん、中腹にも「抜け」(見晴らしが確保できる場所)があり、登り鉄が目指す山だと思われた。
 
文殊山麓を新幹線が通過したのは午前6時10分ごろで、福井市の郡谷こおりや正喜さん(74)は10分遅れで中腹に到着し、シャッターチャンスを逃してしまったという。
「下り列車が来るのでは」とあきらめきれず、カメラを構え続けていた。
 「自分は普段は風景を撮っていて、鉄道が好きというわけでもないんだけど、福井人として新幹線は撮っておかねばと思って」と
郡谷さん。中腹にはベンチがあり、郡谷さんに話しかけようと、登山者が代わる代わる腰掛け、新幹線の話に花を咲かせる。ある登山者の女性は、郡谷さんの手に飴を握らせ、「これ食べれば夕方まで粘れるね」と声かけて山を下りて行った。

続きは中日新聞 2023/10/05
https://www.chunichi.co.jp/article/776872