【ニューヨーク=小林泰裕】急成長した米国の電気自動車(EV)市場に異変が起きている。平均価格は1年間で2割低下し、テスラを始め、各社は業績が悪化した。関心を持つ購買層の多くが購入を終えており、今後、市場の伸びは鈍化するとの見方も出ている。

 16日に報道陣に公開された米国有数の自動車展示会、ロサンゼルスオートショーでは、10万ドル(約1500万円)前後の高級EVを手がける新興企業ルーシッド・グループの新型車に注目が集まった。幹部は、「次世代のゲームチェンジャーになるクルマだ」と強調した。

 だが、業績は振るわない。7〜9月期の売上高は、前年同期比29%減の約1億4000万ドルで、最終利益は約6億3000万ドルの赤字(前年同期は約5億3000万ドルの赤字)だった。生産台数が32%減の1550台に減ったことが響いた。

 米国のEV市場で約6割のシェア(占有率)を持つテスラの7〜9月期決算も、最終利益が44%減の18億5300万ドルと不振だった。販売台数は約44万台となり、4〜6月期に比べて3万台減った。

 他社も計画を見直している。ゼネラル・モーターズ(GM)は10月、2024年半ばまでに40万台を生産する目標を撤回した。フォード・モーターも計120億ドルとなる投資の実施を延期する方針だ。

 ■競争激しく

 米国のEV市場は近年、右肩上がりに拡大してきた。22年の販売台数は約81万台で、約24万台だった19年の3・3倍になった。7〜9月期も前年同期より5割多い約31万台と好調だ。

 他方で、米国での10月の平均価格は約5万2000ドルとなり、1年前よりも2割ほど安くなった。テスラが販売価格を引き下げたことが大きな要因とみられるが、今年の初めに比べて在庫が2倍に増えたとの調査結果もある。需要が想定よりも伸び悩んでいることも背景にあるとみられる。

 S&Pグローバル・モビリティーは11月、米欧など世界の主要市場で、EVの購入に前向きな消費者の割合が、21年の86%から23年は67%に低下したとする調査結果を公表した。税額控除のような支援策を講じても、充電網の不足や長い充電時間、価格の高さが障害になっているという。

 米自動車調査会社、アイシーカーズのカール・ブラウアー氏は、「関心を持つ層の多くは、すでにEVを所有している」と指摘する。「充電の問題を解消しない限り、買いたいと思う消費者は増えない。これまでのような急成長は見込みにくい」と分析し、今後は価格競争が激しくなるとみる。

 これから米国市場にEVを本格投入する日本勢にとっても、当面は厳しい状況になりそうだ。

読売新聞 2023/11/20 08:00
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