東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まって24日で3カ月になった。風評被害を受けた事業者への賠償を巡っては、東電は年度内にも支払いを本格化させ、中国の日本産水産物禁輸による影響も対象となる。原発事故に伴う風評被害の実態を分析した「『正しさ』の商人」(徳間書店)の著者で福島県在住のジャーナリスト、林智裕氏は、「風評加害者こそ責任を持つべきではないか」と指摘する。要旨は以下の通り。
「風評加害」を悪用

懸念された風評被害は起きなかった。福島で水揚げされた「常磐もの」の市場価格は下落どころか上昇している。需要に供給が追い付いていない状況だ。

にもかかわらず、一部水産事業者の売り上げが低下したのは、中国が処理水を政治問題化したからにほかならない。

中国政府は処理水を「核汚染水」と呼び、日本産水産物輸入の全面停止に踏み切った。放出される処理水を「汚染水」などと呼び、不安をあおり続けた日本の一部政党や一部メディア、その支援者による「風評加害」を悪用した結果ではないか。

被害を受けた水産事業者に賠償金は支払われて然るべきだが、「風評被害への賠償」と呼ぶのは誤っている。処理水の放出で風評被害が発生したと既成事実化されかねない。「デマや情報工作、不当な政治的圧力による損害の賠償」など実態に即した言い方にすべきだ。

放出開始前は非科学的に不安を扇動する行為が繰り返されたが、ずいぶん静かになった。「汚染水が海に流される」というデマこそ、関東大震災で「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」といった流言飛語と同じではなかったか。彼ら彼女らは何食わぬ顔で、別のターゲットを探し出し、デマの拡散を繰り返すことだろう。

東電の補償の原資は電気料金だ。風評加害者が拡散した流言や不安の扇動による負担を一般国民が不当に負わされる形になる。処理水を「汚染水」呼ばわりし、根拠なき不安をあおった人々は責任を問われるべきではないか。

産経ニュース
2023/11/24 13:29
https://www.sankei.com/article/20231124-7JHEHFJ4ENFDXL7BAR5ADWPCRU/