2023年11月30日 06時00分
<家族のカタチ 婚姻の平等を求めて>㊦

◆「違憲状態」判決に「世の中は変わった」

 「世の中は変わった」

 昨年11月30日。同性カップルが家族になるための法制度がない現状を東京地裁が「違憲状態」としたと聞き、東京都内の50代後半の貴弘さん(仮名)はそう思ったという。

 九つ上の同性の「相方」と30年余り同居。2人の関係は一部にだけ伝え、親族には「友達とルームシェアしている」と話してきた。80代後半の母親は、友だち以上の関係にうすうす気付いているようだが、きちんと説明したことはない。

 同性婚が法制化されたらどうするか、考えることもある。しかし「自分たちがすぐ結婚するかは、正直なところわからない」。平穏に暮らすため、ゲイ(男性同性愛者)と知られないよう生きてきたからだ。

◆自分たちを守るために積み重ねた「小さなうそ」

 職場では「小さなうそ」をつき続けた。同僚に「好きな女性のタイプは?」と聞かれ、その場しのぎで答えるため、以前の会話との矛盾を突かれたこともある。周囲と仲良くするため異性愛者のように振る舞いつつ「ゲイと知られるのが怖くて自分から壁を作っていた」。

 ゲイに対する差別や偏見を自身が受け入れていたからかもしれない。1990年代、相方と暮らす部屋を探していた時、「男性2人」と言うと「困ります」と何度も断られた。管理費を2倍支払う条件を飲んで契約した。「今なら差別だと思うけど、当時は…。差別や偏見を内面化していた」

◆「パートナー」宣誓した今も「たやすく周囲に言えない」

 2人の関係はずっと続いた。10数年前に貴弘さんがマンションを購入。それを機に互いのパートナー関係や、マンションは共同で管理する財産とするとした公正証書を作った。

 2015年以降、同性カップルを自治体が認めるパートナーシップ制度が広まった。性的少数者に対する空気の変化を感じながら、2人も宣誓した。でも、相方との関係についてはまだ「たやすく周囲には言えない」。これまで異性愛者を演じてきた積み重ねが、ためらわせる。

 性的少数者を支援するNPO法人「パープル・ハンズ」事務局長の永易至文(ながやす しぶん)さん(57)は「関係を親族に秘すカップルが多く、公正証書や遺言作成さえためらう。同性婚制度ができても、利用する人が一気に伸びる、とはならない」とみる。だが「制度ができ社会や人々の意識が変わり、やっと最後に当事者が恐る恐る変わる」と語る。

◆「結婚できる選択肢があるだけで、生き方は変わるはず」

 貴弘さんには最近うれしいことがあった。相方に「老後もよろしく」と言われたのだ。ゲイと自覚した15歳のころ、将来どう生きていけばよいのか不安で「死にたい」とさえ思っていた。今は、将来も相方と一緒にいられる安心感がある。

 一方、世の中に目を移すと、判決から1年たっても同性婚を認める立法の動きはない。「世論調査でも過半数が同性婚に賛成しているのに、どうして」。15歳のころの自分と同じような絶望を若い世代に残したくない。「結婚できる選択肢があるだけで、生き方は変わるはず」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/292939