ゲノム上に散らばる"縄文人由来変異"の保有率を手がかりに、本州における縄文人度合いの分布を調べた結果をマップに示した。沖縄県については縄文人由来変異保有率が0.0255と本州付近に比べて飛び抜けて高く、上記の地図からは省いてある。また、今回解析したデータにはアイヌの人々が含まれていないため、正確な結果が得られていない北海道も省略した(Modern Japanese ancestry-derived variants reveal the formation process of the current Japanese regional gradations. Watanabe Y. and Ohashi J. in iScience, March 17 2023 を元に作成)
https://i.imgur.com/gBlozWS.png

かつて日本列島の縄文文化を支えた縄文人の遺伝子は今どこにあるのか。現在の日本人集団は、縄文人の子孫と大陸からの渡来人の混血で生まれた。東京大学の渡部裕介特任助教と大橋順教授らは、日本の現代人ゲノムから縄文人に由来するとみられる変異を特定した。

縄文人は渡来人が来るまでの間、1万年以上も他の人類集団の流入がないまま孤立して暮らしていた。この間に、縄文人のゲノムには縄文人特異的な変異が蓄積したと考えられる。研究チームは、現代の日本人集団が持つ特異的な変異の中から、より古い時代に生じた変異を特定し、縄文人由来の変異を遺伝学的に絞り込む解析手法を開発した。

縄文人由来変異を探すためのデータとして、国際協力プロジェクトである「1000人ゲノムプロジェクト」の日本人集団(103人)を含む26集団のデータと「韓国個人ゲノムプロジェクト」(87人)のデータを用いた。約170万個の日本人特異的な変異の中から、今回の解析手法で20万8648個の縄文人由来と考えられる変異を絞り込んだ。

研究チームは次に、この縄文人由来変異を手がかりにして約1万人の現代日本人のゲノムデータを解析し、縄文人由来変異の保有率の違いを県別に調べた。その結果、地方ごとに大きな違いが明らかになった。大橋教授は「縄文人らしさの割合について、その地域的差異が現代でもはっきりと残っているのは面白い」と話す。

さらに渡部特任助教らは現代日本人のゲノムを「縄文人由来」と「渡来人由来」に分類し、それぞれの遺伝要素と現代日本人の体質の関係性を調べた。縄文人由来と渡来人由来の遺伝要素の違いで生まれる体質の定量的な差をみると、縄文人では血糖値と、高血糖状態を表すHbA1C値、中性脂肪が大きな値だった。一方渡来人では身長、炎症の強さの指標となるCRP値、免疫で重要な役割をする好酸球の量が高かった。

身長は古人骨の形態からも渡来人の方が高いことがわかっている。血糖や中性脂肪関連の値の高さは採集狩猟民である縄文人の食生活に関係するとみられた。食べ物不足に備えて栄養をため込む「倹約遺伝子」的な働きだ。一方、CRP値や好酸球の数が示す免疫反応の強さは感染症への対抗に有効で、定住する農耕民の渡来人には重要だったとみられる。

過去には役立った倹約遺伝子や免疫の性質は、現代では疾患の要因になっている可能性がある。地域別に縄文人由来変異の保有率と現代の5歳児の肥満率の相関を調べると、縄文人らしさの高い地域の方が高い肥満率だった。また、好酸球が関係すると思われるぜんそく患者重症化率と縄文人由来変異保有率の相関を見ると、縄文人らしさが低い地域ほど重症化しやすかった。これらの結果について渡部特任助教は「縄文人由来変異で疾患の地域的勾配を説明できていると考えられる。今回の解析手法の答え合わせとして興味深い」と話す。

縄文人の痕跡は遺跡の中だけでなく、現代の私たちの体内に残っている。現代人のゲノムから祖先の姿を探る先史時代への新たなアプローチを通じて、私たちのルーツに関する新たな知見がこれからも見つかりそうだ。(科学ジャーナリスト 内村直之)

2023年12月24日 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC223660S3A221C2000000/

★1:2023/12/27(水) 23:59:23.89
https://asahi.5ch.net/test/read.cgi/newsplus/1703749999/