1日に発生した能登半島地震では木造住宅の倒壊が相次いだ。激しい揺れに襲われた石川県輪島市、珠洲市の街は壊滅的な状態で、いまだ被害の全容は明らかになっていない。これほどまでに甚大な被害をもたらした要因は何だったのか。

 能登半島地震では、木造家屋や中低層建物の全壊や倒壊を引き起こしやすい周期の地震波が発生し、被害を拡大させた可能性が指摘されている。

 地震波の周期とは、揺れが1往復するのにかかる時間を指す。人が感じやすい揺れは0・1~1秒で、その周期の揺れだけでは建物自体の被害は出にくいとされる。一方、1~2秒周期の揺れは木造建物の破壊をもたらしやすい。2秒を超えるような周期の場合は高層ビルが大きく揺れる。

 京都大防災研究所の境有紀教授(地震防災工学)が防災科学技術研究所のデータを解析したところ、今回の地震で石川県穴水町や輪島市、珠洲市などで1~2秒の周期の強い揺れが観測された。周期に強さも加味すると、穴水町で観測された揺れは1995年の阪神大震災に匹敵するほどだった。揺れの強さは「重力加速度(G)」という単位で示され、1~2秒周期では0・5G程度を超えると被害が出始め、1Gを超えると相当規模の被害になるという。

 1~2秒の周期の揺れが起きる要因の一つは地盤の軟弱さで、河川によって運ばれた土砂などの堆積(たいせき)物で作られた平野や、埋め立て地などで起きやすい。さらに震源の位置や断層破壊のメカニズム、震源から被災地までの地震波の伝わり方、地震の規模も大きく関係する。

 このため震度が大きいというだけで住宅被害が拡大するわけではない。例えば、2011年の東日本大震災では宮城県栗原市で震度7を観測したが、1秒以下の短い周期の揺れがほとんどで、観測地点の近くに全壊した建物はなかった。一方、阪神大震災の際、JR鷹取駅周辺(神戸市須磨区)は震度6強で1~2秒周期の揺れが強く、周辺で6割近くの木造家屋が全壊したという。

 今回の地震で被害が拡大している地域は1~2秒周期の揺れが起きやすかった可能性が指摘される。国土交通省北陸地方整備局によると、珠洲市などの沿岸地域は河川沿いに形成され、細かな石や粘土が主体の場所と、砂と粘土による海岸平野とがあるという。

 揺れによる建物被害を考える際、境教授は「地震は震度に注目しがちだが、揺れの周期、特に1~2秒の周期の揺れの強さが重要だ」と解説する。そのうえで、過去に発生した地震の分析を踏まえ「1~2秒の周期の強い揺れを観測した割合は全体の10~20%で、耐震基準を満たしていなくても(1秒未満の)短い周期だったために建物が壊れなかったというケースが多い。しかし、どの地域を1~2秒の周期の揺れが襲うかの予測は難しい。全国的に耐震補強を進める必要がある」と強調した。

「度重なる地震で建物に疲労蓄積」
 能登半島では20年12月ごろから続く群発地震で、建物の強度が下がっていたところに強い揺れに見舞われ、大きな被害につながったという見方もある。

 3日に珠洲市などを現地調査した金沢大の村田晶助教(地震防災工学)は、「被害を受けていない家屋を見つけるのが難しく、23年5月の地震(最大震度6強)の被害をはるかに超えている。1階部分がつぶれて屋根しか見えない家もある。崩れた家が道を塞ぎ、車が走行するのも難しい」と緊迫した様子で語った。

 村田助教によると、被害が大きい珠洲市正院町は河川による堆積平野にあり、地盤が軟弱で地震の際に揺れやすい。また、地震が繰り返されると、柱と梁(はり)を金属で接合している部分が緩くなったり壁の内部に亀裂が入ったりして、見た目では分からなくても建物の強度は下がっていく。村田助教は「度重なる地震で建物の構造に疲労が蓄積していた可能性がある」と指摘する。

 一方、3日の調査では比較的新しい家は外観を保っていたことも確認した。阪神大震災を踏まえた00年の耐震基準改正後に建てられたとみられ、新たな基準が倒壊防止に役立っていた可能性があるという。

 能登半島では地震が続き、今は問題がなさそうに見える建物でも今後の揺れで倒壊する恐れがある。避難所などにいて、どうしても家に物を取りに行かなければならない場合、村田助教は「明るい時間帯に誰かと一緒に行動するなど十分に注意してほしい」と呼びかける。【寺町六花、渡辺諒】

毎日新聞 2024/1/3 20:23(最終更新 1/3 21:18)
https://mainichi.jp/articles/20240103/k00/00m/040/253000c