「偉くなるには集金力。大臣並みのカネを集めてやろう」上昇志向の果てに…裏金は派閥内でのしあがるためか
<政治とカネ 自民党派閥裏金事件>(4)

 「私は力をつけたかった。長崎県が抱えた課題を処理していきたかった。そんなら大臣並みの金を集めてやろうと思いました」
 長崎県大村市で22日、開かれた記者会見。自民党派閥の裏金事件で略式起訴され、議員辞職願を提出した地元選出の谷川弥一衆院議員(82)は、安倍派のパーティー券を大量に売った動機を聞かれて、そう答えた。
 谷川議員が派閥から受けた裏金は2022年までの5年間で4355万円。自身が設立した建設会社の関係先や友人らに、少なくとも10年前からパーティー券を売るシステムがあったと説明した。
 県議を経て衆院選に初当選したのは2003年。農林水産政務官や文部科学副大臣に就いたが、大臣にはなれずに7期目に入っていた。
 「金を集める力と、堂々と論陣を張れることが、政治家にとって偉くなるのに必要なことだと思っていたんです。勘違いしていました」
◆「俺のより安倍派のパー券を売れ」
 同じ安倍派で、谷川議員より多い4826万円の裏金を収支報告書に記載せず、証拠隠滅の恐れがあるとして政治資金規正法違反容疑での逮捕に至ったのが、衆院議員(比例東海)の池田佳隆容疑者(57)だ。
 「『俺のパーティー券なんかより、清和会のパーティー券を頑張って売れ』って指示が出て、きついんです」
 池田容疑者をよく知る自民関係者は、地元の愛知3区で池田容疑者の事務所スタッフから、そんな愚痴を聞いたのを覚えている。政策秘書もよく、安倍派のパーティー券を売り歩いていたという。
 池田容疑者の政界進出のきっかけは、06年に若手経営者らでつくる日本青年会議所(JC)会頭に就任したことだった。当時の安倍晋三首相の教育観に感銘を受け、安倍氏との関係を深めていった。
 12年の衆院選で初当選し現在4期目。政治資金収支報告書によると、安倍派のパーティー券を大口購入(20万円超)した企業のうち、池田容疑者の支援企業は延べ3割を超えた。複数の企業代表者がJC関連の役員をしていた。
 元秘書の一人は「大口の購入者はJC人脈で、本人(池田容疑者)が直接、連絡したのだろう」と話した。
◆出世するには派閥の推薦がものいう自民党
 池田容疑者は岸田政権で念願の文部科学副大臣に。だが選挙の方は2期目以降、小選挙区では毎回、ライバルの後塵(こうじん)を拝し、重複立候補した比例での復活当選が続いた。
 多額の裏金を何に使ったのか。地元の自民の地方議員は「上昇志向が強かったので、派閥でのし上がるために必要だったのではないか」と推測し、安倍派の幹部に使った可能性があるとみる。
 実際、付き合いの深い幹部がいたといい、愛知県内の自民の国会議員は「幹部の一人とは異次元の関係だった」と明かした。議員がこの幹部の閣僚時代に陳情した際、「池田から聞いているから大丈夫」と太鼓判を押されたという。「(派閥の上層部に)『これ、使ってください』という感じだったのではないか」
 政務官ー副大臣ー大臣と、政界で出世するには派閥の推薦がものをいう自民党。「偉くなるには集金力が必要だと思った」という谷川議員。果たして本人が言うように「勘違い」だったのだろうか。
  ◇
<連載:政治とカネ 自民党派閥裏金事件>
 自民党の派閥に巣くっていた多額の裏金事件で、ほとんどの国会議員は法的な責任を免れた。国民の感覚との大きな落差がどこからくるのかを問う。(三輪喜人、浜崎陽介、戎野文菜、米田怜央、昆野夏子が担当します)

東京新聞 2024年1月24日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/304724