おむつメーカーが作った「ワンオペ育児」の動画広告や、スクール水着姿の女性を特産品のうなぎに見立てた自治体のPR動画の表現などをめぐって、ネット上で炎上する事案が増えている。現状を改善したいとメディア関係者や研究者が集まり、炎上が起きる背景などを考えるシンポジウム「これってなんで炎上したの?このネタ、笑っていいの?」の第1回目が、東京大学で行われた。

東京大学の林香里教授の研究室が主催。メディア側として、竹下隆一郎・ハフポスト日本版編集長や羽生祥子・日経DUAL編集長が登壇し、エッセイストの小島慶子さん、田中東子・大妻女子大学准教授(メディア文化論)や、少子化ジャーナリストの白河桃子さんらと意見を交わした。

ユニ・チャームのおむつブランド「ムーニー」が作成した、母親が一人で子育てに奮闘する動画広告の事例では、「なぜ父親と思われる男性が少ししか登場しないのか」などと批判が殺到した。

竹下編集長は「視聴者がより敏感になって、私たちメディアはついていけてないのでは」と指摘。「見る側がいくら声をあげても制作する側のひとには、口うるさいと思われている。作っている側と受け手の間に分断がある」と分析した。

テレビでの表現についても議論になった。小島さんは「先日バラエティ番組で、私が何かいうと“こわい、こわい、顔こわい”と言われた。私は受け流せるが、視聴者には、女性を相手に顔こわいと言ってもいいと伝わってしまいかねない」と危惧し、「今は個人が発信者なのでリテラシーが研ぎ澄まされてきている。たくさんの人が見る場で、ブス、ハゲ、独身、オネエやガイジンといった発言が出たときに、テレビの現場が冗談だ、みんなわかっているからアリとされてしまうのは違和感を持っている」など話した。

自治体の作る動画やパンフレットなどの制作物にも炎上表現が度々登場していると指摘したのは白河さん。‘女性は受身の性’などの表現があったりして炎上した事例を紹介し、「作るのは広告代理店などメディアだが、悪気なく作ったものが税金で作っていることにより厳しい目で見られるところがある」などと、炎上しやすい理由を説明した。

田中准教授はメディアを研究する専門家の立場から発言し、「炎上というのはメディアが行使するイデオロギーに抗うための女性たちの闘争の手段。インターネットの時代になってSNS上で、色々なイシューを軸とした女性たちの議論が活発になっている」と、炎上が起こることによって、女性の考えが可視化されることを評価した。

一方、「以前はゆっくりと時間をかけて行われてきた議論が短期間のうちに巻き起こっては流されていくのも特徴。ネトフェミが騒いでいるだけという男性や、なぜこんなことで騒ぐのかと主張する現状肯定型の女性たちと、じっくり対話していくことが必要」と強調した。

メディア側として羽生編集長は「記事を作っているときに、ママやお母さんと言う表現をパパ・お父さんという表現に置き換えてチェックしている」などと、編集過程について紹介。「一旦これでいこうと思っても、マイノリティとマジョリティを入れ替えて表現してみると、おかしい部分がないか気がつけると思う」などと、炎上コンテンツにならないための具体策を提示した。

シンポジウムに参加した新聞社の男性記者(39)は「立場を変えてみたら、このコンテンツについてどう思うのか、常に考えるのが大切だと実感した。今回はジェンダーの話が中心だったが、ジェンダーだけではなくジェネレーションギャップとか、あちこちに意識の違いは存在している。シーンごとに誰でも先入観を持ってしまう可能性はあるので、コンテンツ作りの現場で、それを修正できるプロセスを作っていくことも大事だと感じた」と話していた。

ソース/THE PAGE
https://thepage.jp/detail/20170520-00000006-wordleaf