2018年3月24日 夕刊

 近年は改善傾向にあった東京都足立区の犯罪件数(刑法犯認知件数)が昨年、六年ぶりの都内ワーストとなった。
町ぐるみで取り組んできた防犯活動が成果を上げていただけに、住民らの衝撃は大きい。汚名返上をかけた対策が始まった。 (川田篤志)

 「『足立は治安が悪い』とまた言われてしまう。残念だ」。区の担当者は、地域のイメージに与える影響に神経をとがらせる。
警視庁によると、昨年の犯罪件数は前年より百十四件多い六千六百三十三件。六年ぶりの増加となった。

 区は二〇〇八年から、割れた窓の放置など環境の悪化が犯罪を誘発するという「割れ窓理論」に基づいた「ビューティフル・ウィンドウズ運動」を進めてきた。
街頭パトロール、駅前の清掃や通学路の花植えなどの活動が奏功し、一一年から犯罪数は、毎年、千件ペースで減っていた。

 ただ、昨年は空き巣などの「侵入盗」が急増した。前年比25%増の三百三十二件は、都内ワースト。区の担当者は
「防犯カメラの空白地域が狙われた恐れがある」と分析する。ニセ電話詐欺など「詐欺」も前年比32%増の三百五十六件だった。

 商業地と住宅地が混在する綾瀬地区・防犯対策推進協議会長の峯岸茂隆さん(76)は、開発で新住民が増えたこと、
昔からの住宅街では高齢化が進んでいること−などが背景にあるという。「防犯を呼び掛けても、住民に情報が伝わらない」

 区は汚名返上に躍起だ。一月、自転車の鍵掛けを義務化する都内で初めての条例を施行した。犯罪発生数の四割を占める「自転車盗」を減らせば、大幅な犯罪数減につながる。
罰則規定はないが、区営駐輪場で無施錠の自転車を見つけたら、鍵掛けを促す警告札を張る。一月の自転車盗の発生数は百一件で前年同期よりほぼ半減した。

 自動販売機に防犯カメラを設置し、犯罪抑止につなげる実験も始めた。商品棚に置いたカメラが周囲の様子を二十四時間監視し、映像を一週間保存する。
二月一日、近藤弥生区長が出席して地域の人たちに披露され、自販機の前をうろつく不審者をモニターに映し出すデモンストレーションが行われた。
区の担当者は「自販機は区内に数多くある。防犯カメラの空白地域の解消につながる手段になれば」と話していた。

<刑法犯認知件数> 警察が被害を把握した犯罪の発生数。自治体ごとの件数は人口や面積、繁華街があるかなども影響するので、
件数が治安の良しあしを正確に表すわけではなく参考指標として使われる。
警察庁によると、昨年の全国の総件数は前年比8%減の約91万件。2003年以降は減少が続いている。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201803/CK2018032402000253.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201803/images/PK2018032402100154_size0.jpg