お金の出し入れが10年以上ない「休眠預金」を民間の公益活動に活用するため、各銀行がシステム整備に乗り出した。投資額は大手銀行5グループだけで50億円程度とみられる。「前例のない社会実験」ともいわれる休眠預金の活用は、低金利の継続やITを駆使した金融サービス「フィンテック」の進展を背景に新規採用の抑制、店舗網の見直しといった構造改革を迫られる銀行にとって、重い負担となりそうだ。

 休眠預金の活用は、銀行がまず、預金保険機構にお金を移すところから始まる。各行が着手したシステム開発は、この対応に必要な措置という。

 お金はその後、首相が指定する指定活用団体で厳正に管理される。地域の公益活動事情に詳しい資金分配団体を経て、来秋には、若年層の支援や地域活性化に取り組む民間非営利団体(NPO)への助成・融資・出資が始まる。

 政府が2月にまとめた基本方針案では、支援先として、児童養護施設に入所する子供の進学支援や障害者の雇用促進、過疎地の雪下ろし事業などに取り組む団体を想定。しかし「資金の使い道をあらかじめ政府が限定すべきではない」として、当初検討課題に上がった「子どもの貧困対策」など、基本方針に具体的な事業名を明記することは見送った。

 休眠預金活用法は平成28年12月に成立、今年1月に施行されたことで、政府や銀行が具体的な対応に動き始めた。政府は来夏をめどに、休眠預金活用の基本計画をまとめる方針だ。

 海外では、英国や韓国などが同様の休眠預金の活用制度を設けている。

 金融庁の推計によると、休眠預金は毎年約1200億円発生し、このうち500億円程度が預金者に払い戻されている。民間の公益活動を支援する財源として財政難の国が目をつけたのが、残る約700億円の“眠れる資産”だ。実際には、ここからさらに支払い請求に備える分を除いた500億円程度が対象となる見通しという。

 休眠預金にはたとえば、預金者が転居手続きをしないまま引っ越してしまい連絡が取れなくなるケースや、相続人に預金の存在を知らせないまま預金者が死亡するケースがある。銀行は10年以上取引が途絶えた預金口座のうち、残高が1万円未満の口座を自動的に休眠扱いとしている。残高が1万円以上ある場合は預金者に通知し、戻ってきた場合などに休眠扱いとしている。

 商法では、最後の取引から5年が経過すると預金者は財産権を失うと定めている。銀行は休眠預金を利益として計上しているものの、時効後でも預金者から請求があれば、多くの銀行が元本に利息を上乗せして払い戻しているのが実態だ。

 休眠預金口座の約9割は残高1万円未満、平均残高はわずか約6500円という政府の調査もある。あるメガバンク関係者は「こうした小口の預金口座の維持・管理にも、銀行は多くの手間とコストをかけてきた」と打ち明ける。

 政府の基本方針案には、休眠預金の活用について「わが国では前例のない『社会実験』である」との文言が盛り込まれた。銀行は制度運用開始後も請求があれば預金者に払い戻しをするが、もとは一般国民の財産である休眠預金の活用には、これまでも「財産権の侵害」などと批判する声もあった。

 休眠預金を有効活用できれば、恵まれない子供たちや障害者への支援が広がる可能性はあるが、配布先の選定や使い道には、厳しいルールが求められる。(経済本部 米沢文)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180507-00000508-san-bus_all