生命保険や銀行などの金融業界で、パソコンの入力作業やメールの送信といった定型的な業務を自動化することで効率化を図るRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が進む。事務仕事はパソコンやコンピューターネットワークのサーバー上のロボット(ソフトウエア)に任せ、生まれた余剰人材を別の分野に注力させることもできる。一方でロボットが“野生化”し、「野良ロボット」が生まれるリスクもあるという。

 日本生命保険が平成26年に導入した「日生ロボ美」は、銀行の窓口販売部門の事務に専従するソフトだ。26年にRPAの一環として導入後、社員が付けた愛称「ロボ美」が定着し、昨年に正式命名され、入社式まで開かれた。ミスなく休まず働く仕事ぶりが評価され、今年6月からは資産運用部門の事務作業にもRPAが導入された。

 RPA導入のメリットは、ロボットなのでミスが発生しにくく、従業員のような労務管理上の制約がなく、夜間や休日も稼働できることが挙げられ、人手不足の解決策になり得る。

 名前は付けないまでも、RPAの取り組みは他生保でも導入が進む。第一生命保険は昨年、全社業務にRPAを導入すると発表。明治安田生命保険は31年度末までに28年度比で3割程度の業務効率化を掲げている。住友生命保険も一部業務で実証実験しており、実用化を検討中だ。空いた人員は、保険とITを融合したサービス「インシュアテック」(保険版フィンテック)などの成長分野に振り分けたり、機械にはできない企画や営業の部隊に送り込んだりしている。

 T&Dホールディングス傘下の太陽生命はRPAで従業員の事務作業時間を年間延べ1万時間以上削減をできたため、新たなサービスを創出した。それまで事務を担っていた余剰人員で、けがや病気で動けない人の家に訪問し、代わりに書類を書くなどの手続きをする「かけつけ隊サービス」を組織。28年の開始から5月末までにかけつけ隊の出動回数は計5万件を超えた。同社は「機械にできる業務を、人間にしかできないサービスに代えた」と胸を張る。

 RPAに詳しい野村総合研究所の上級コンサルタント、福原英晃氏によると一定のルールに基づいた定型的な仕事が多い金融業界はRPAとの親和性が高く、28年ごろから広まった。現在は他業種の大手も採用しつつある。「中堅・中小企業でも間違いなく普及すると思う。生産人口の減少で、RPAを『導入せざるをえない』状況になり、10年後には当たり前になっているかもしれない」と分析する。

 ただ、やみくもな導入はロボットが“野生化”するリスクをはらむと、福原氏は指摘する。ロボットが増えると、どうしても管理が煩雑になりやすい。担当者が異動するなどして保守を怠ると、誰の管理下にもない、何の作業をしているのか実態が分からない「野良ロボット」がはびこる可能性がある。

 野良ロボットがサーバー上やパソコンの中でうろうろしているならまだいいが、間違った情報を入力し続けるなど“凶暴化”すると、財務諸表などの数値を誤る恐れも出てくる。そうなれば、経営判断だけでなく、投資家の投資判断にも悪影響を及ぼしてしまう。

 野良ロボットの発生を防ぐには、現場で勝手にロボットをつくらせないなどルールを決め、手綱をしっかりと取ることが重要と福原氏は説く。その上で、こうアドバイスする。

 「ロボットは案外デリケートで前提の条件が変わるとうまく働かない。しっかりと仕事を教えて、ケアもする。導入するならRPAと向き合うこと。いわば新入社員を迎え入れるのと同じです」(経済本部 林修太郎)

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