※週末の政治

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■欧米反緊縮左翼のコンセンサス

 イギリスのジェレミー・コービン党首の労働党やアメリカのサンダース派、フランスのメランション派や黄色のベスト運動、スペインのポデモス、ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相の始めたDiEM25など、近年、欧米では反緊縮左翼が台頭しているが、そのコンセンサスとなっているのは、次のような見解である。

 彼らは「財政危機論」を新自由主義のプロパガンダとみなしている。財政危機を口実にして財政緊縮を押し付けることで、公的社会サービスを削減して人々を労働に駆り立てるとともに、民間に新たなビジネスチャンスを作り、公有財産を切り売りして大資本を儲けさせようとしていると見なす。

 したがって、財政緊縮反対は政策の柱である。逆に、財政危機論にとらわれず、財政を拡大することを提唱する。

 その中身として、医療保障、教育の無償化、社会保障の充実などの社会サービスの拡充を掲げるのはもちろんである。

 しかし「反緊縮」というのは、それにとどまらず、財政の拡大で景気を刺激することで、雇用を拡大するところまで含んでいることに注意しなければならない。

 その財源としては一様に、大企業や富裕層の負担になる増税を提唱している。

 しかしそれだけではない。中央銀行による貨幣創出を利用する志向が見られ、中央銀行によるいわゆる「財政ファイナンス」はタブー視されていない。

 公的債務の返済を絶対視することは新自由主義側の信条と見なされており、公的債務を中央銀行が買い取って帳消しにすることも提唱されている。

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■反緊縮経済理論の主要3潮流

 いずれも、これまで緊縮・財政再建論を支えてきた新古典派マクロ経済学と対抗する、多くはケインズ経済学の現代的潮流であるといえる。

 1つの潮流は、主流派ケインジアンの流れである。

 有名なものでは、イギリスのニューケインジアン左派のサイモン・レンルイス、アメリカのニューケインジアン左派のノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン、同じくアメリカの左派ケインジアンでノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ、アメリカのニューケインジアンの大御所マイケル・ウッドフォード、スペインのニューケインジアンのジョルディ・ガリなどが影響を与えている。

非主流派では、特に、ポスト・ケインズ派の一派であるハイマン・ミンスキーの流れをくむMMT(現代貨幣理論)の論者の貢献が大きい。ランダル・レイ、ウォーレン・モズラー、ビル・ミッチェル、ジェームズ・ガルブレイスらが主な論者である。

 また、非主流派ではそのほかに、信用創造廃止・ヘリコプターマネー論の潮流があり、大きな影響を与えている。

 すなわち、今日の貨幣のほとんどは民間銀行が貸付先の預金口座に数字を書き込むことで創造され(=信用創造)、そのことが経済不安定の原因になっていると見なす見解で、そこから、信用創造を廃止し、政府が民衆のために支出することで貨幣が創造される仕組みに変えるよう主張する議論である。

 代表的な一派にポジティブ・マネー派がある。イギリスにあるシンクタンク、「ニュー・エコノミック・ファウンデーション」に多いようである。

 そのほか、ポスト・ケインジアンのアナトール・カレツキー、日本でも『円の支配者』で知られるリチャード・ヴェルナー、ヘリコプターマネー論で有名なアデア・ターナーなどがこうした主張をしている。

 次のような主張は、よくマスコミなどでMMTの主張とされているが、これらの3派にも共通する、経済学の標準的な見方である。

・通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に予算制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である。

・租税は民間に納税のための通貨へのニーズを作って通貨価値を維持するためにある。言い換えれば、総需要を総供給能力の範囲内に抑制してインフレを抑えるのが課税することの機能である。だから財政収支の帳尻をつけることに意味はない。

・不完全雇用の間は通貨発行で政府支出をするばかりでもインフレは悪化しない。

・財政赤字は民間の資産増(民間の貯蓄超過)であり、民間への資金供給となっている。逆に、財政黒字は民間の借り入れ超過を意味し、失業存在下ではその借り入れ超過は民間人の所得が減ることによる貯蓄減でもたらされる。

 主な反緊縮政治家の背後にはこうした潮流の経済政策ブレーンがいる。(以下ソース)

著者:松尾匡(立命館大学経済学部教授)

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190524-00281897-toyo-bus_all