2019/12/19 6:00



 三菱重工業が売却検討を始めた長崎市香焼町の長崎造船所香焼工場は主力工場の一つ。近年は生産規模を縮小していたとはいえ、「ついにここまで来たのか」と県内関係者も驚きを隠さない。

 同工場は1972年に完成。国内最大級の長さ千メートルのドックから数々の大型船が海原に繰り出した。「高い技術を求められ、誇りのある仕事だった。売却されるのであれば、さみしいですね」。同市在住の元従業員男性(65)はこぼす。

 下請け、孫請けの会社だけでなく、同業者にとっても大きな存在。「長崎で造船に携わる者には、三菱で有名な造船の街で働いているんだっていう自負がある。長崎市民にとって、なくてはならないブランドなんだが…」と市内の同業者は胸の内を明かす。

 一方で、地元住民の受け止めは冷静だ。最大3千人いた従業員は5分の1にまで落ち込み、大勢が行き交った通りは閑散とする。商店を営む80代男性は「三菱の経営が厳しいことは分かっていた。これでまた町が寂れていく」と話した。

 新長崎市史は「香焼の歴史は、造船業の盛衰の歴史でもある」と記す。明治・大正期は松尾造船所、昭和に入って川南造船所がこの地で船を造った。川南の閉鎖後に進出してきたのが三菱重工だ。そして、今度は西海市の大島造船所への工場売却が検討される。

 長崎市の田上富久市長は「創業の地・長崎を大事にし、地元への貢献を考えての判断だと思う。長崎の造船の火を消さない、ということだろう」と語った。(徳増瑛子、華山哲幸、野村大輔)
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/569394/