地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の断念で、安倍晋三首相がトランプ米大統領からの米国製兵器の購入拡大要求に応じた政治主導の弊害があらわになった。性能への疑問が浮上していたにもかかわらず、配備計画を強行した。既に196億円を支出。うち125億円は米国に支払われ、追加負担の可能性もある。予定地だった秋田、山口両県には不信感が残った。(上野実輝彦、山口哲人)

◆膨れ上がった費用 理由は
 「これはもう、日本側の負担だ」。河野太郎防衛相は26日の記者会見で、地上イージスに投じた196億円は戻ってこないことを認めた。125億円は情報取得費などとして米国に支払い、残る71億円は米国から輸入するレーダーや国内の地質調査費、基本設計費に支出した。
 地上イージスは導入前から巨額の費用が生じている。政府は当初、1基800億円と説明したが、その後、2基の本体費用と維持費、教育訓練費などを合わせて4504億円に膨れ上がった。1787億円分が契約済みだ。

 費用が膨らみ続けたのは米国に有利な「対外有償軍事援助(FMS)」で購入したためだ。最初に見積額を支払い、契約履行後に総額を精算するため、米側の言い値で「必要な機能を付加するたびに裏に値札が付く」(自民党国防族議員)。最終的な費用がはっきりせず日本にとって不利だ。防衛省内にも価格の不透明さを問題視する声がある。
◆違約金が発生するかも…危機感
 新たな負担の可能性もある。防衛省当局者によると、契約書にあたるFMSの標準約款に「購入国は解約に起因する全ての費用に責任を負う」とあるからだ。地上イージスの契約解除で日本がいくら負担するかは「個別に協議する」(防衛省当局者)ことになる。
 河野氏は記者会見で、追加負担の可能性について「日米協議の中で決まる」と否定しなかった。政府高官も「違約金が発生するかもしれない」と危機感を隠さない。地上イージスに代わるミサイル防衛を進めることになれば、新たな米国製兵器購入につながる。
◆トランプ氏との関係重視 ニーズは後回し
 地上イージス導入は、自衛隊からの要望がないまま、首脳間のトップダウンによって進められた。首相はトランプ氏から2017年11月の首脳会談で「米国から防衛装備を大量に買うべきだ」と迫られ、翌12月の閣議で導入を決めた。

 当時は北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を繰り返し、防衛力強化を理由としていたが、軌道が低く不規則な新型ミサイルを北朝鮮が開発していたことが19年に判明。「弾道ミサイル防衛だけでは対処できない」(防衛相経験者)と地上イージスの性能に不安が高まったが、配備の流れは止まらなかった。
 背景にあるのは、トランプ氏との関係を重視するあまり、自衛隊のニーズや配備候補地の住民らへの対応を後回しにした安倍政権のやり方だ。断念の理由となった迎撃ミサイルのブースター(推進装置)の落下位置も「米国が大丈夫というなら信じるしかなかった」(別の防衛相経験者)。
 政府は米国の言い分通りに説明し、結果的に地元を振り回した。秋田県の佐竹敬久知事は「(導入を閣議決定してからの)2年半は何だったのだろうか」と政府への不信感を隠さない。

東京新聞 2020年6月27日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/38141